大ちゃんとは毎日連絡を取るようになった。今までとは違って、口実なんか作らなくても連絡を取り合えることが嬉しかった。
次に会ったのは一週間後、大ちゃんの仕事が終わった深夜だった。
家まで迎えに来てくれた大ちゃんの車に飛び込む。
「大ちゃん、久しぶり」
「久しぶり。こんな時間でごめんね」
「ううん、大丈夫」
大ちゃんはにっこり笑って、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。何度も何度も同じことをされているのに、今までとは比べものにならないくらいの幸せを感じる。
ただひとつだけ気になっていることがある。
大ちゃんは、まだ彼女と別れていない。
二年も付き合っているのだから、簡単には別れられないのかもしれない。昨日今日ですぐに彼女になれるなんて思っていない。それくらいの覚悟はしている。だから急かすことはしなかった。
「菜摘、どこ行きたい?」
「んー、カラオケ?」
「こんな時間から? てかおまえ入れる?」
すでに二時を過ぎている。言わずもがな高校生が入れる時間ではない。
「大ちゃんは行きたいとこある?」
「あー……嫌ならいいからね」
「え? どこ?」
「ホテル、行く?」
あまりにもストレートすぎて、え、と反射的に声が漏れる。
だけど私はそこまで驚いていなかった。
好きだと言ってくれた時から、いつかそういう日が来るとは思っていた。さすがに今日さっそく言われるとは思っていなかったにしろ、大ちゃんとそうなることを望んでいた。
「嫌ならいいよ。ほんとに」
嫌じゃない。嫌なわけがない。
だけど、頭に浮かんでいる台詞を言わなければいけない。まだ彼女と別れてないじゃんって、私は言わなければいけない。なのに、喉につっかえて出てこない。
違う。出てこないのではなく、言いたくないのだ。
「……ううん。行く」
私の返事を聞いた大ちゃんは、車を発進させた。ホテルに着くまで、私たちはひと言も交わさなかった。大ちゃんといるのに静まり返っているなんて初めてだった。
まだ大ちゃんには彼女がいる。今ここで体を許せば、私はまた──いや、前以上に、正真正銘の浮気相手になってしまう。そんなこと、頭ではちゃんとわかっていた。だけど、体でもいい。なんでもいいから、大ちゃんと繋がっていたい。そうでもしなければ、日に日に募る不安をごまかすことができそうにない。
本当に別れるのかな。もしかして、このまま終わるんじゃないだろうか、と。
不安になるのは当たり前だった。
出会ってから二年間、大ちゃんにはずっと彼女がいて、ずっと片想いで、こうなることはほとんど諦めていたのだから。時間が経てば経つほど、好きだと言ってくれたことは夢なんじゃないかと思ってしまうのだから。