適当に走らせていると思っていたのに、着いたのは地元から車で一時間くらいの場所にある夜景スポットだった。車を降りて、頂上へ歩いていく。
「すごいすごい! めっちゃ綺麗!」
夜景を見るのは久しぶりで、というか大ちゃんとデートみたいなことをしているのが夢みたいで、私は子供みたいにはしゃいだ。
「うるせえよ。さっきまで泣いてたくせに」
「泣いてないよ」
言い返すと、大ちゃんは突然黙り込んだ。今日の大ちゃんはちょっと忙しい。あと、ちょっと様子がおかしい気もする。
「どうしたの?」
話しかけても無反応で、なにやら考え事をしているように見える。
「大ちゃん、帰りたいの? 帰る?」
つまらないのだろうか。もしかして、私がなにかしてしまったのだろうか。
不安に煽られて、つい詰め寄ってしまう。
「いや、そうじゃないよ。あのさ……」
「うん。なに?」
やっと反応してくれた大ちゃんは、真顔で私の髪に触れた。
そして次に聞いたのは、私の不安とはまるで正反対の言葉だった。
「俺、菜摘のこと好きだよ」
今度は私が黙り込む番だった。
今なんて言った……?
「おまえなんつー顔してんの?」
私の頬を軽くつねりながら、大ちゃんは悪戯っぽく笑った。
ああ、なんだ。友達としてってことか。混乱していた頭が一気に冴える。
「ありがと。友達としてってことだよね?」
「ちげえよ。好きは好きでも、なんていうか……愛してるの方? 女として好き」
また黙り込んでしまった。
とてもすぐに理解できるような状況じゃなかった。
頭がついていかなくて、真っ白で、信じられなくて、体が小刻みに震える。
「……え?」
愛してる、って、言われた気がする。
いや、そんなはずない。私の聞き間違いに決まっている。聞き間違いじゃなかったとしても、冗談に決まっている。
「え……ちょっと、待って。なに言ってるの? 冗談にしても質悪すぎるよ」
「冗談なわけないだろ」
わかっている。大ちゃんは冗談でこんなことを言う人じゃない。
だけど、あっさり信じられるわけがなかった。
私たちの距離は、出会った頃からずっと変わらなかった。どんなに手を伸ばしても届かなかった。届きそうだと思った途端、いとも簡単に離れていった。追いかけても追いかけても、決して振り向いてくれなかった。
この二年間、ずっとそうだったのだから。
──あいつ真理恵に告られた時、一回断ってるよ。気になる子がいる、って。
──ナツミがナツミがって、楽しそうに話してくるんだ。
──山岸はその〝ナツミ〟が好きなんだと思ってた。
そんなのあくまで駿くんの推測でしかない。思ってた、ということは、大ちゃんの口から直接聞いたわけじゃないということだ。たとえ本当に私を好きでいてくれた瞬間があったのだとしても、それは過去だ。
だって、大ちゃんは。