また会いたい会いたいと項垂れながら一週間が過ぎた。
今日はクラスの友達数人で、受験勉強の気晴らしという名目でカラオケへ来ている。私は受験勉強なんてしていないから、気晴らしもなにもないのだけれど。
「ほんとになあ。なんであそこで訊けないかなあ」
痛いところを突きながらけらけら笑う隆志の肩を力いっぱい殴る。今の私は冗談に付き合う気分じゃないし、さらりとかわせる心の余裕もない。大好きなカラオケに来ているというのに一曲たりとも歌う気になれないほど、一週間前の大きすぎる後悔に苛まれているのだから。
〝またね〟
笑顔で手を振る山岸さんが、ずっと頭から離れない。
あの日のことを思い返すたびに、なにもできなかったことが悔しくて悔しくて爆発しそうだった。なにやってんだ私。
「冗談だって。南高入ればまた会えるもんな」
逆を言えば、南高に入るまで会えないということだ。
その頃には、きっと私のことなんか忘れられている。
「もう六時だよ。そろそろ出なきゃ」
学生フリータイムは十八時までだから、みんな立ち上がってそそくさと帰る準備を始める。伊織に五百円玉を渡し、「トイレ行ってくる」と伝えてひと足先に部屋を出た。
ああ、また会いたいな。もう一度会えたら、次こそは絶対に失敗しないのに。
どうやったら会えるんだろう。いつもゲーセンで遊んでいるのだろうか。通っていればいつか会えるかもしれない。だけど、奇跡って二度も起きるのだろうか。いや、そもそも一週間前に会えたのは奇跡なんかじゃなく、ただの偶然だったのかもしれない。
うだうだと考え事をしながらとぼとぼ歩いていく。トイレの前にあるフロントは、会計待ちで長蛇の列になっていた。その中に紛れている学ラン姿のふたり組は、背が高くてひときわ目立っている。
黒の学ランだから南高生だ。あれが山岸さんだったらいいのになあ……ともはや夢のような淡い期待を抱きつつぼうっと眺める。
その人の顔がはっきりと認識できる距離まで近付いた時、私はまた硬直してしまった。
ありえないと思った。信じられなかった。
これも偶然なんだろうか。
いや、もうそんなのどうだっていい。
また会えるなんて──。
激しく脈打つ心臓に手を当てて、一歩ずつ、ゆっくりと歩いていく。
落ち着け。落ち着け──。
「山岸、さん……?」
ふたりが同時に振り向いた。見間違いなんかじゃなく、紛れもなく山岸さんだった。
心臓が全身に広がったみたいだ。今度こそ破裂してしまいそう。
山岸さんは一瞬目を丸くして、無邪気に笑った。
「実習の子じゃん。よく会うね」
ああああやっぱりかっこいい……。
「すごい偶然だね。友達と来てんの?」
「はい! あ、でももう出ますけど」
「そっか。そういや名前は?」
「菜摘です! 高山菜摘!」