話に夢中になっているうちに、外はすっかり暗くなっていた。
 お別れの時間が、迫っていた。

「もう帰ろっか。夜みんなでパーティーなんでしょ?」
「だな。そろそろ行かないと」

 まだ離れたくないに決まっていた。
 だけど、大ちゃんには高校生活最後の日を目いっぱい楽しんでほしい。私にとって大ちゃんと過ごした一年間がかけがえのないものになった以上に、大ちゃんにとっての高校生活が、かけがえのない思い出になってくれたらいい。
 立ち上がり、どちらからともなく向かい合った。

「じゃあ、またね」

 優しく微笑んで私の頭を撫でる。
 この言葉以上に嬉しいものはない。だけど今回ばかりは素直に喜べない。

「また会えるかわかんないよ」

 前は〝同じ高校に行けば会える〟という目標があったけれど、今度こそ本当に離れ離れだ。
 環境が大きく変わる。いつ会えるかわからない。
 もしかしたら、本当にもう会えないかもしれない。

「たぶん会えるよ。そんな気がする」
「……うん。大ちゃんがそう言うなら会えるかな」

 顔を見合わせて笑い合う。
 歩き出そうとした時、大ちゃんが私を抱きしめた。

「なんかすげえ変な感じじゃない? 今まで普通に会ってたのに」
「ほんとだね。……もしかして、大ちゃんも寂しいの?」
「んー……うん。なんか……寂しいとか思ったの初めてかも」

 馬鹿か、とか返ってくるか、はぐらかされるかと思ったのに。
 寂しいのは私だけじゃなかったんだ。
 大ちゃんの腕に、力がこもった。

「彼女に怒られるよ」

 このまま離さないでほしい。

「見られてねえもん」

 ずっとずっと、抱きしめていてほしい。

「やっぱチャラ男じゃん」
「懐かしいな、それ」

 大ちゃんと初めて会った日のことも、再会した日のことも、初めてたくさん話した日のことも。
 覚えている。全部全部、私の記憶に強く刻まれている。

「ずっと思ってたんだけど、香水つけてる?」
「うん」
「だよな。この匂い、甘くて落ち着く」

 大ちゃんは出会った頃から変わらない、ほんのり甘い香り。私の大好きな香り。
 少しの沈黙ののち、大ちゃんの腕がゆっくりと離れた。
 お別れの時間が、来てしまった。

「じゃあ、またね」

 離れたくない。離れたくないよ。

「うん……またね」

 大ちゃんはもう一度私の頭を撫でると、「帰ろっか」と微笑んだ。

 ねえ、大ちゃん。
 また会えるよね……?