停学が明ける頃には二月に突入していた。大ちゃんたち三年生は自宅学習という名の春休みだから、卒業式まで登校しない。三年生のいない校舎は静まり返っていて、その静けさが、これからの別れを示唆しているようだった。
一年なんてあっという間。
ついに大ちゃんが卒業する日が──また離れる日が来てしまった。
うちの高校は生徒数が多いから、各クラスの代表者が卒業証書をまとめて受け取っていた。
理緒は彼氏が卒業だから私の隣で大号泣していた。かくいう私も死ぬほど我慢していた。大ちゃんがクラスの代表者じゃなくてよかった。檀上で卒業証書を受け取る姿を見てしまったら、たぶん私も理緒に負けないくらい大号泣していただろう。
卒業生が退場し、卒業式が終わる。四人で昇降口へ向かうと、卒業生たちはそれぞれ別れを惜しむように抱き合ったりじゃれ合ったりしていた。
大混雑していて、もはや誰が誰だかわからない。
でも、私の得意技。大ちゃん捜し。
すぐに見つけた私は大ちゃんのもとへ走った。
「卒業おめでと!」
後ろから体当たりをすると、大ちゃんはバランスを崩して転びかけた。体勢を立て直した大ちゃんに「危ねえよ」と軽くチョップをされた。
「どうした? 見送ってくれるの?」
「うん。だって今日で──」
最後だし、と言いかけた時、大ちゃんの手に握られている賞状筒が目に入った。こうして話せることはなくなるのだと実感が湧いてしまう。
ああもう、私なんで停学なんかになっちゃったんだろう。一日でも長く大ちゃんと一緒に過ごしたかったのに。ていうかせっかく同じ高校に入れたのに、なんだか無駄に避けたりすれ違ったりしてばかりだった。
私はなんてもったいないことをしてしまったんだろう。
受験勉強あんなに頑張ったのに、ほんとなにしてたんだろう、私。
「なにその顔。寂しいの?」
薄々気付いていたけれど、どうやら私は自分で思っているよりポーカーフェイスがうまくない……というか、めちゃめちゃ顔に出るらしい。
「だって……もう会えないかもしれないし。大ちゃん就職だもんね」
大ちゃんの会社は夜勤が多いらしかった。学校がある私とは真逆の生活だ。
「もう会えないかもかあ。……菜摘、ちょっと話そっか」
「え? あ、うん」
大ちゃんと一緒に校内へ戻る。けっこう人が残っていたから、ひとけのない場所を探しているうちに、屋上へ繋がる階段にたどり着いた。
「このあと予定ないの?」
「駿たちと卒業パーティーするけど、夜だからまだまだ時間あるよ」
「そっか」
よかった。ゆっくり話せるんだ。
終わったことをいくら嘆いたって時間は戻らないのだから、少しでも後悔を減らせるように、今日たくさん話せばいい。そう切り替えて、大ちゃんの隣に座った。
「俺、ずっと菜摘に言いそびれてたことあるんだけど」
今さらだけど、と付け足した大ちゃんに、戸惑いながら「なに?」と答える。
なんだろう。改めて言われるとちょっと緊張する。
「前に俺、菜摘のことシカトした時あったじゃん」
大ちゃんが気まずそうに頭をかいた。