隠せている気になっていた自分がちょっと恥ずかしい。

「山岸もだよ。たぶん」
「え? 大ちゃんもってどういう……」
「山岸って他人に興味ないだろ?」

 知っていたのか。
 いや、そんなの当たり前だ。大ちゃんとの付き合いは、私より駿くんの方が断然長いのだから。

「俺、菜摘と知り合う前から菜摘のこと知ってたよ。名前だけだけど」

 脈絡がない気がして理解が追いつかない。
 知り合う前、という言葉だけ拾って当時の記憶をたぐり寄せてみる。

 ──ナツミちゃん、だよね?

 そういえば駿くんは、初対面の時に迷わず私の名前を呼んだ。思い返してみても、私は自己紹介なんてしていないのに。

「初めて会った時、私のこと知ってたのって……」
「山岸に聞いてたから。初めて見た時ピンときたんだよ。この子がナツミかなって」
「そうだったんだ」
「山岸が他人の名前連発するなんて初めてだったよ。ナツミがナツミがって、楽しそうに話してくるんだ」

 頭の中で駿くんの話が全部繋がった瞬間、視界がぐわりと歪んだ。私は自意識過剰だから、続く台詞がわかってしまう。
 大ちゃんと出会ってからめっきり涙腺が弱くなってしまった私は、泣かずにいられるだろうか。

「だから……山岸はその〝ナツミ〟が好きなんだと思ってた」

 嘘だ。そんなの嘘。だって、大ちゃんは。

「でも、大ちゃんは……今の彼女と付き合ったじゃん」
「あいつ真理恵に告られた時、一回断ってるよ。気になる子がいる、って。真理恵がそれでもいいって言ったんだよ」

 だからって〝気になる子〟が私だとは限らない。それに今さらそんなことを聞かされたってなにかが変わるわけじゃない。大ちゃんは結局付き合って、私を振って、今でも彼女と付き合っている。それが事実だ。

 ちゃんとわかっているのに。
 どうしても、私は嬉しかった。
 ほんの少しでも、私たちは両想いだったのだろうか。
 お互いを想い合っていた期間が、ほんの一瞬でも、あったのだろうか。

「あいついっつも余裕ぶってんのに、菜摘にだけは熱くなるよ。体育祭の時も、クリスマスの時も、さっきも。菜摘になんかあったら、あいつ飛んでくじゃん」

 私は目に溜まった涙がこぼれないよう必死で、口を結んだまま駿くんをじっと見つめることしかできない。

「あいつが唯一必死になんのは、菜摘のことだけ」

 体が動かない。駿くんから目を離せない。

「なあ、そんだけ山岸のこと見てたらわかんねえ? ほんとはわかってんだろ? あいつが唯一人間らしくなんのは……菜摘といる時だけなんだよ」

 わからないよ、そんなの。
 だって、大ちゃんは。

「でも……大ちゃんは彼女いるじゃん。私振られたんだよ。ちゃんと告って、でも振られたのっ」

 なぜか無性に悔しくて、どこか惨めで、またぐちゃぐちゃになった感情を今度は駿くんにぶつけた。

「私、ずっとずっと頑張ってたんだよ。私なりに頑張ってたんだよ。でも大ちゃんは振り向いてくれなかった!」

 また八つ当たりをしている。私は人のせいにしてばかりだ。
 駿くんはなにも悪くないのに。
 必死に、私になにかを伝えようとしてくれているのに。

「あいつもさ、たぶんいろいろあるんだよ。言ってくんないけど」

 いろいろってなに? なにが言いたいの? 私になにを伝えようとしてるの?
 はっきり言ってくれなきゃわからないよ。

「引き留めてごめんな。……じゃあ、気を付けて帰れよ」

 これ以上混乱させないでよ。
 それを聞いて、私にどうしろっていうの。