私を捜し回っていたらしい先生たちに即刻確保され、校長室へ連れていかれて二週間の停学処分を告げられた。一週間くらいかなと予想していたのに、やはり教師との喧嘩は罪が重いらしい。
荷物を取りに教室に寄って、みんなに「お騒がせしました」と一礼してから昇降口へ向かった。
そこで待っていたのは、まさかの駿くんだった。まだ二時間目だし、授業はとっくに始まっているのに。
「駿くん、どうしたの? サボり?」
「ちげえよ。今菜摘が喧嘩した先生の授業だから、自習」
私と駿くんの古文の担当は同じ先生で、その先生は今、職員室で事情聴取もどきを受けている。
「あー……なるほど。もうすぐ受験なのにご迷惑をおかけして申し訳ないです」
「だるい授業なくなって助かったわ。てか、時間ある? ちょっと話さない?」
駿くんに改めてこんなことを言われたのは初めてだ。
これまた意外すぎるお誘いに首をひねると、駿くんは「ちょっとだけだから」と言って床に座った。わかったと答えて私も隣に座る。
なんだろう。駿くんが私に話したいことなんてまったくなんにも見当がつかない。
ドキドキしながら構えていると、駿くんはひとつ息をついてから切り出した。
「俺さあ、好きな子いるんだよね」
「あ、そうなん……は?」
なんだって私に急にそんなことを言うのかわからない。まさかのカミングアウトにありえないくらい声が裏返ってしまった。
「そんな驚くことねえだろ」
「いやいや、驚くよ普通に。えっと……いつから?」
「わっかんね。気付いたら好きだった。けどたぶん、一年くらい前からかな」
知り合ってから、駿くんに彼女ができたと聞いたことがない。ということは、ずっと一途にその子だけを見てきたのだろうか。
純粋にすごいと思った。だって私は──。
「……告ったりしないの?」
「しねえよ。その子、他に好きな奴いるから」
「でも、告っちゃえばいいじゃん。うまくいくかもしれないし……」
「それはないな。男として見られてないだろうし。それにその子も、そいつのことずっと好きなんだよ。だからたぶん、一生叶わない」
自嘲気味に笑った駿くんを見て、自分はなんて無神経なんだろうと思った。単なる諦めではなく、きっとその子を一年間見てきた駿くんなりの結論だ。なのに私は自分の意見を押し付けてしまった。
駿くんと自分が、重なって見えてしまった。
「あのさ。そこらにカップルなんか腐るほどいるけど、一番好きな相手と付き合ってる奴ってどれくらいいるんだろうな」
そんなこと、考えたこともなかった。
真っ直ぐに前を向いて、駿くんは続けた。
「それぞれいろんな経験して、いろんな想いがあってさ。言い方悪いかもしんねえけど、本当に……世界で一番好きな相手と付き合えてる奴なんて、そんなにいないんじゃないかな。俺もこれから先彼女ができたとしても、その子を忘れたかって訊かれたらたぶん忘れられないと思う。けど、それはべつに悪いことじゃなんだよな」
ああ、そうか。
駿くんの言いたいことが、なんとなくわかった。
「菜摘もそうだったんじゃない?」
生徒指導室の前で話した時にばれたのだと思っていたけれど、どうやら違ったらしい。
駿くんは、もっとずっと前から知っていたのだ。私が大ちゃんを好きなことも、大ちゃんを好きなまま亮介と付き合っていたことも。
「いつから気付いてたの?」
「初めて植木んちで五人で遊んだ時かな」
「それ一年も前じゃん」
まさかそんなに前からばれていたとは。
私が鈍感なのか、駿くんのポーカーフェイスが完璧だったのか。
「私ってそんなにわかりやすい?」
「俺と話してる時と山岸と話してる時、顔が全然違う。輝いてるな」
いつか亮介にも、顔が明るかったって言われたっけ。