十二月に入る頃には、裏サイトでの誹謗中傷がピークに達していた。

「菜摘! これ見た!?」

 昼休み、お弁当を食べ終えて机に突っ伏していた私の肩を由貴が揺らした。顔を上げるとスマホの画面を向けられていて、表示されている内容にさらりと目を通す。

「んー……さっき見た」

 相変わらず、一年生の中では圧倒的に私たちの名前が多かった。
 どうやら私は、亮介と付き合っていることで敵視されているようだった。最近こんな内容をよく見る。

『亮介浮気してるよ。あたしヤッたもん』
『菜摘かわいそー』
『さっさと別れろよ』

 亮介は女の子たちに人気があるらしい。

「これまじ!?」
「わかんない」
「そっかあ……」

 由貴はスマホをポケットにしまって、しょんぼりしながら暖房の前に座った。私も由貴の隣に移動し、慰め合うようにぴったりとくっついた。

 なにが『かわいそー』だ。ふざけんな、楽しんでいるくせに。いい気味だと思っているくせに。いい加減にしろ。ていうか、匿名でしか人に喧嘩を売れない自分が恥ずかしいと思わないのか。ああもう、むかつく。
 相手にしたら負けだ。だから絶対に反論を書き込んだりしない。
 ただただ、早く流行が去ってくれることを願っていた。

 亮介が浮気しているか、そりゃ気にはなる。だけど訊いたところで認めないだろうし、喧嘩になるのは目に見えているし──事実だとしても、私に責める権利なんてない。
 亮介のことを好きになりたいという願いは、未だに叶っていなかった。そんな私が亮介のことを問い詰められる立場なのだろうか。
 答えなんて考えるまでもなく出ている。いいわけがない。

 うじうじしている自分が嫌で、前に進みたくて亮介と付き合ったのに、結局なにも変わっていなかった。ただ人を巻き込んだだけ。前進どころか悪化している。

「理緒は? 彼氏と大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。彼氏も気にするなって言ってくれてるし」

 私たちと同じように腹を立てていた理緒は、最近は至って冷静だった。校内一のイケメンと言われている人と付き合っているのだから、僻まれるのは仕方がないと腹をくくったらしい。

 というのは理緒の強がりだとわかっていた。冷静になったわけじゃなく、無理にでも強がっていないと耐えられないのだろう。理緒に対する誹謗中傷は、私に対するそれとは比べ物にならないほどひどかった。すべては妬み嫉み僻みだと頭では理解していても、傷つくものは傷つく。
 もう嫌だと一度だけ泣いた理緒を、私は知っていた。