学校祭が終わると夏休みに入った。

「もうすぐ二か月だな」

 ベッドであぐらをかきながら、亮介が嬉しそうに言った。
 こういう無邪気なところが可愛い。外見は大人っぽいのに。
 そうだね、と答えながら、まだ二か月なんだ、と思っていた。いつも気を張りつめているせいか、やたらと長かったように感じてしまう。

「俺さ、これから毎月記念日にプレゼント渡すよ。で、思い出いっぱい増やそう?」

 まるで女の子みたいな発想だ。
 亮介の笑顔を見ていると、心が温まる。
 同時に、罪悪感は大きくなる。

「うん。ありがと」

 いつもなら私が『ありがとう』と言えば笑ってくれるのに、亮介はなにか言いたげに顔を曇らせた。

「どうしたの?」
「……菜摘さ、俺のこと好き?」

 窺うように上目で私を見て、亮介が言った。

「なんで急に……」
「不安になった」

 ふと、告白された時のことを思い出した。

 ──好きになれなかったら……振ってくれていいから。

 あの約束はちゃんと覚えている。私がなによりも欲していた言葉だったのだから、忘れるはずがない。
 私はまだ、それなりにしか亮介のことを好きになれていないと思う。もっと正直に言えば〝早くちゃんと好きになりたい〟と思っている状態だ。つまり、好きになれていない。
 じゃあ、どうして別れないんだろう。

「……好き、だよ」

 答えは、私自身が一番よくわかっていた。
 亮介を失うのが怖いからだ。

「俺の方が好きだよ」

 亮介が私の肩を抱いた。一度軽くキスをして、徐々に深いものへと変わっていく。
 亮介に押し倒されて、私は拒まずに受け入れた。

「俺、すげえ幸せ」

 ──私も幸せだよ。

「大好きだよ」

 ──私も大好きだよ。

「愛してるよ」

 私も──。

 亮介がどれだけ気持ちをぶつけてくれても、私はひとつも返してあげられなかった。