「菜摘、どう? やっぱり高校生いっぱいいるね」
「んー……いないみたい」
体験入学を終えた翌週の金曜日の放課後、私と伊織と隆志は街中のゲームセンターにいた。
ヤマギシのことを忘れられず、会いたい会いたいと呪文を唱え続ける私に、じゃあ高校生の溜まり場でも行ってみれば? と伊織が提案してくれたのだ。
この田舎町では、学生が遊びに行くような場所は限られる。その中のひとつがゲーセンだった。そんな最高すぎる提案に乗らないわけがなく、ふたつ返事で頷いて今に至る。
ヤマギシがいるかどうかなんてわからないのに。そんな都合よく会えるわけがないし、むしろ会えない可能性の方がきっと高い。だけど会いたくてどうしようもなくて、ほんの小さな奇跡に賭けるしかなかった。
一瞬でも、単なる偶然でもなんでもいい。ただ、もう一度会いたい。
そう祈りながら一時間ほどねばってみても、ヤマギシは現れなかった。
「いるわけないか……」
そんな漫画や映画みたいにドラマチックな偶然が現実に起こるはずないと、ちゃんとわかっていた。
「菜摘、ごめん、あたしそろそろ帰らなきゃ」
「もうそんな時間?」
ゲーセン内に設置されている時計を見ると、短い針は〝6〟を過ぎていた。
「うん、もう帰ろっか。付き合ってくれてありがと」
口ではそう言いつつまだ期待して、店内を見渡してしまう自分が馬鹿みたいだ。諦めが悪いにも程がある。
後ろ髪を引かれながら歩き出そうとした時だった。向かう先にある、出入口の透明のドアが両側に動く。そこに学ランを着た人が三人並んでいた。
真ん中の人──。
「あ……あ、あの人!」
「えっ?」
「ヤマギシ! いた!!」
──奇跡が起きたと、本気で思った。
「嘘! どこ!?」
「あの三人組! 真ん中の人!」
耳打ちをしてから目線で方向を示すと、ヤマギシに気付いた隆志はありえないとでも言いたそうに仰天していた。
「あ、奥の方行っちゃうよ! 早く追いかけなきゃ!」
「うん、ちょ……ちょっと待っててっ」
ゲーセンに行くことが決まった瞬間から、もしも会えたらなにを言おう、なにを話そうと何度もシミュレーションを繰り返していたはずなのに、一瞬にして綺麗さっぱりぶっ飛んでしまった。
だけど、ありえないと思っていた、それでも期待せずにはいられなかった小さな奇跡が起きたのだ。なにがなんでもこのチャンスを逃すわけにはいかない。とにかく今話しかけなければ絶対に後悔する。
恐る恐る彼の後ろまで歩み寄り、大きく深呼吸をして、勇気と声を振り絞った──はずなのに、
「あの……、ヤマギシ……さん」