後夜祭も終わり、トリを飾るのは本日の大目玉である花火大会。理緒は彼氏のところに行ったし、由貴と麻衣子は最前列で見ると張り切っていた。私は疲れたから離れたところで見ると伝えて、人混みに紛れていくふたりを見送った。

 階段にぽつんと座ってグラウンドを見渡す。カップルたちは遠目でもわかるほどいちゃいちゃしていた。手を繋いで寄り添ったり、学校だというのに人目も気にせずキスをしたり。
 幸せそうな人たちを見ると、少し羨ましくて、少し寂しくなった。それでもやっぱり、亮介に会いたいとは思わなかった。

 校内放送でカウントダウンが始まり、大歓声と共に花火が打ち上げられた。
 階段に座ったまま、ぼっち花火を満喫する。花火が中盤に差しかかった頃、後ろから髪をつんと引かれた。驚きつつも、誰なのか確認する前に見当がついていた。私にこんなことをするのはひとりしかいない。

「大ちゃん」

 振り向くと、大ちゃんはにっこり微笑んだ。
 一段下りて、私の隣に座る。

「なんでひとりなの?」
「なんとなく。ちょっと疲れたし」
「彼氏できたんじゃないの? 噂で聞いたけど」

 ……知ってたんだ。
 胸がちくりと痛んだ自分は、どこかに隠さなければいけない。
 大ちゃんの口から〝彼氏〟って聞くの、嫌だな。いつか慣れるのかな。平気になるのかな。

「うん……まあ」
「一緒じゃないの?」
「さっき帰ったよ」

 ちょっとドキドキする。花火の音と歓声で声をかき消されるから、自然と顔も近くなる。

「てかさ、菜摘、浴衣似合うじゃん。普通に着てた方が絶対いいよ」
「ありがとう。嬉しい」
「うん。素直でよろしい」

 髪型が崩れないように、いつもより軽く頭を撫でてくれて、少し、泣きそうになる。

「めんこいな」

 あまり方言を使わない大ちゃんが、そう言って微笑んだ。
 やっと言ってくれた、と思った。大ちゃんに会える日は少しでも可愛いと思ってほしくて頑張っていた頃は一度も言ってくれなかったのに、今さら言ってくれたのは癪だけれど。

「ありがとう」

 そのまま──亮介への罪悪感を押し殺しながら──一緒に花火を見た。
 花火の音より、自分の鼓動の方が、ずっと大きく聞こえた。