夏休み目前のその日、校内は体育祭以上に朝から大騒ぎだった。
年に一度の学校祭。うちの高校はもともと校則が緩いせいもあってか、イベントの時の盛り上がり方が半端じゃない。私たちも浴衣を派手に着こなして、四人ではしゃいでいた。
朝一でクラス対抗歌合戦があり、私は麻衣子と一緒に出場した。見に来ていたらしい駿くんと植木くんに「お疲れ」と言われて、ありがとうと返しながら辺りをきょろきょろと見渡す。
「駿くん、大ちゃんは?」
「あいつ出店担当だからもう行ったよ。なんか買いにいってやれば?」
「なに売ってるの?」
「唐揚げと焼きそば」
「両方好き! 行く!」
麻衣子はお腹が空いていないらしいから、ひとりで向かった。
大ちゃんに会えるなら嫌いな物でも行くけれど、彼氏ができた以上、理由を作らなきゃいけないと思った。悟られないよう必死になりすぎていた。ただの友達なら、理由なんかなくてもいいのに。
本心は、理緒たちにも言えなかった。
亮介と付き合ったことを報告すると、みんなすごく喜んでくれた。私はただただ罪悪感が膨らんだ。大ちゃんに彼女ができたあと、伊織と隆志になにも言えなかった自分を思い出した。
都合の悪いことは隠す。私は中学の頃からなにも成長していなかったのだ。
昇降口を抜けると、すぐに3Fの出店を見つけた。
「大ちゃん!」
「菜摘じゃん。歌合戦ちょっと見たよ」
「ありがと!」
差し出された唐揚げを受け取った。イベントに興味がなさそうな大ちゃんが、わざわざ見に来てくれたことが嬉しい。
男子は甚平を着ている人がたくさんいて、植木くんや駿くんもそうだったのに、やっぱり大ちゃんは普通に制服姿だった。大ちゃんはどこまでも大ちゃんだ。甚平姿も拝みたかったのに。
「唐揚げいくら?」
「いいよ。頑張ったご褒美」
「やった。じゃあ焼きそば買う。小銭二百円しかないんだけど足りる?」
「三百円」
「え、おまけしてよ」
「売り上げかかってんだよ」
「ケチ。馬鹿」
「おまえふざけんなよ」
渋々財布から千円札を取り出して、大ちゃんの手に置いた。ちゃっかり焼きそばを大盛りにしてくれるところが大ちゃんらしい。
すると大ちゃんの後ろから、担任らしき先生が私たちに大量の唐揚げを差し出した。
見覚えがあると思ったら、体験実習の時の先生だ。大ちゃんの担任だったのか。
「山岸、これやるから彼女と食え」
ドキッとした。彼女……に、見えるんだ。