結果は、ひとりは抜いたものの、もうひとりはどうしても抜かせなくて二位。
めちゃくちゃ悔しかった。納得いかない。私はやるからには一位になりたくてジャージに着替えたくらい本気だったのに、一位の子は重たそうな着ぐるみのまま爆走していたのだ。着ぐるみでそんなに速いなんてずるい。
アンカーが出るはずの表彰式を麻衣子に任せてグラウンドを去る。絶対に人前で泣かないと心に誓っている私は、誰もいない教室の隅っこで泣いた。
窓からグラウンドを覗いてみると、閉会式が始まろうとしていた。自分から逃げてきたくせに、なんだか取り残されたような心地になってしまう。教室にひとりって想像していたよりずっと寂しい。隅っこに体育座りなんかしちゃっている自分が、ちょっと惨めに思えた。
また半ベソをかきながら、閉会式はサボろうと思った。
だって、頑張ったのに。頑張ろうねって、大ちゃんと約束したのに。
「やあーっと見っけた」
閉会式は始まったばかりだから、校内には誰もいないはず。
なのにどうしているの。本当にやめてほしい。
「おまえさ、なんで電話シカトしてんだよ。何回かけたと思ってんの?」
顔を上げずにスマホを確認すると、不在着信履歴の先頭に〝大ちゃん〟がいた。
「二回」
「あれ、そんだけ? まあいいや」
また膝に顔を埋めると、隣にぬくもりを感じた。
外からは総合順位を発表する声が聞こえてきた。
「なに泣いてんの? 頑張ったんだから泣かなくていいんだよ」
泣いている時に優しい言葉をかけるのは、ある意味とどめだ。
余計に涙が止まらなくなる。
「菜摘は頑張ったよ。友達とリレーの練習してんの、俺ちょくちょく見かけたもん」
絶対に人前で泣かないって、心に誓っているのに。
大ちゃんの前で一度泣いてしまったから、もう二度と見られたくなかったのに。
「ちゃんとご褒美あげるよ。閉会式は特別に俺もサボってやるから、存分に泣きなさい」
大ちゃんのちょっと汗くさい、だけどほのかにいつもの甘い香りがするジャージを着せられた私は、お言葉に甘えて子供みたいにわんわん泣いた。
大ちゃんは手を握って、私が泣き止むまでずっと隣にいてくれた。
『準優勝、3F!』
外から「うおぉぉおぉ!」とすさまじい雄叫びが聞こえる。
大いに盛り上がっていてなによりだ。
「準優勝だってさ。おめでと」
「優勝じゃねえのかよ。まあいいや」
本当に、あのリレーで大逆転優勝、なんてなったら、めちゃめちゃかっこよかったのにね。
私のクラスが呼ばれることはなかった。
悔しいけれど、もういいのだ。大ちゃんはちゃんとご褒美をくれたから。
汚い字で『数学☆山岸大輔』って書いてある、二ページしか使っていないのになぜかけっこう汚れているノート。
部屋の机の三段目の引き出しの中身が、またひとつ増えた。