体育祭当日の朝、教室で配られたプログラムを見て発狂しそうだった。
 普通リレーといえば、一年の女子から始まって三年の男子で終わるものだと思う。三年の男子から始まって一年の女子で終わりなんて、実行委員は全員馬鹿なのか。

 イベントが大好きなうちの高校は、朝から大盛り上がりだった。
 女子は体育祭だというのになぜか浴衣を着ている人や、ハロウィンかと突っ込みたくなるようなコスプレをしている人がたくさんいる。男子も負けじとコスプレをしたり、上半身裸でうろついている人もいた。

 とにかく、なにがなんでも今日という日を青春の一ページに強烈に刻んでやろうという意気込みはものすごく伝わる光景だった。
 もはやきちんとクラスTシャツや指定のジャージを着ている人を探す方が困難なくらいだ。かくいう私たちも着ぐるみを着て髪を派手にセットしてやる気満々なのだけど。

 そしてあっという間に次々と種目が終わっていき、いよいよ迎えた四百メートルリレー。手のひらに『人』を三回書いて飲む、なんて言うけれど、飲んだら吐きそうなくらい緊張していた。

 三年生の男子はスタートラインに並んでいて、トップバッターの植木くんを見つけると同時にピストルの音がグラウンドに響き渡った。私にアンカーを押し付けたくせに薄情な理緒は見事にゲットした校内一のイケメンのところへ行ってしまったから、由貴と麻衣子と三人でリレーを眺める。
 植木くんと駿くんももちろん速いけれど、私の目はすでに大ちゃんを捜し始めていた。

 今日は雲ひとつない快晴で、まだ六月上旬なのに夏日らしい。選手たちはみんなTシャツを肩までまくって(なんなら脱いで)、ジャージだって膝までまくっている。なのに大ちゃんはひとりだけ露出ゼロで、友達と話しながら相変わらずにこにこしていた。
 大ちゃんに緊張の色なんてない。いつだって余裕綽々なのだ。

 大ちゃんにバトンが渡った時、十組中三位。頑張れ、と心の中で叫ぶ。走り出した時、アンカーを引き受けた理由も、余裕綽々な理由もすぐにわかった。
 見惚れたとしか言いようがない。本気で走っているかもわからない感じなのに、あっさりとふたり抜かして見事一位でゴールした。選手たちがグラウンドに倒れ込む中、大ちゃんは立ったまま、やっぱりにこにこしていた。

 ここまでくるともはや憎たらしい。いくらなんでもかっこよすぎる。他の人たちが全員ピーマンに見える。
 これから走るのだからなるべく平静を保っていたいのに、私の心臓はもう走り終えたのかと錯覚するほど激しく脈打っていた。

 続く二年生のリレーが終わり、一年生の男子がスタートすると、私たち一年女子の準備が始まる。ハチマキとタスキを手渡されて、アンカーのスタート地点で待ち構えていた。
 トップバッターの麻衣子から始まり、私にバトンが回ってきた時、うちのクラスは三位。意外すぎる大健闘に絶大なプレッシャーを感じながらバトンを受け取った。