「じゃあ菜摘で決まりね!」
「ちょっと理緒、やだ! 絶対やだ!」
「もう決まっちゃったもん。しょうがないよ」

 入学してから初めての大イベント、体育祭。
 トリを飾るのはクラス対抗四百メートルリレー。大目玉であるその種目で、私はアンカーに大抜擢されてしまった。

「絶対無理! そんなに速くないし!」
「もう書いちゃったし、菜摘しかいないもん」

 理緒の手には『四百メートルリレー選手』と大きく書かれたプリントが握られている。アンカーの欄には、女の子らしく可愛い文字で『高山菜摘』と書かれていた。名前の隣には、ご丁寧に全然似ていない似顔絵まで。

「ほんとに嫌! サボるよ!」
「しょうがないじゃん、他にいないんだから! 菜摘、頑張ってね!」

 大きすぎるプレッシャーは、由貴のたったひと言で片付けられた。名前を書いた紙も提出されてしまい、覚悟を決めるしかなかった。
 他のクラスのリレー選手は、たぶん部活に入っている子ばかりだろう。うちのクラスの女子は体育会系の部に入っている子がいないから、運動部に所属していた経験があるという理由だけで、帰宅部の私が選出されてしまったのだ。

「麻衣子、代わってよ」
「やだよアンカーなんて」

 運動神経がいい麻衣子も無理やり押しつけられた身だから、ちょっとイライラ気味らしい。
 項垂れるように麻衣子の肩に頭を乗せて、ふたり同時に深い深いため息をついた。