「いいじゃん。菜摘のこと紹介してほしいって人いるんだけど、どう?」
「軽い人ならお断りです」
「軽くないよー! イケメンだし、いい人だよ? ね、いいじゃーん」

 由貴が甘えた声で言うから、ちょっと断りにくくなる。

「まあ、いっか」
「ほんと!? じゃあ菜摘の連絡先教えとくね!」

 由貴は嬉しそうに笑った。

 その日の夜、さっそく例の彼からメッセージが届いた。

【由貴に教えてもらったよ! 隣のクラスの亮介(りょうすけ)です!】
【菜摘です。隣のクラスなんだ。よろしくね】

 なんで私のこと知ってんの? と思っていたけれど、隣のクラスなら知っていてもおかしくない。

【俺ら入学式の時に隣だったんだけど、覚えてない? ちっちゃくて可愛いなって思ってたんだよね!】

 ぼけっとしていたからまったく覚えてない。
 ちっちゃいは余計だけど、たとえお世辞でも可愛いなんて言われたら嬉しい。

【ごめん、覚えてないや。でもありがとう】

 何度かやり取りをしてその日は終わり、亮介との初対面は翌日の昼休みだった。

「菜摘だよね?」

 教室で理緒と話している時に後ろから声をかけられて、振り向くと見覚えのない男の子が立っていた。

「え……ごめん、誰?」
「亮介だよ」
「ああ! はじめまして」

 色白の大ちゃんとは違い、少し日に焼けた健康的な肌色で、アッシュ系の髪を綺麗にセットした、背が高い男の子。制服を着崩しているもののだらしなくはなくて、お洒落さんって感じだ。
 由貴の言う通り、確かにイケメンだった。

「飯食った? ちょっと話さない?」

 いいよと答えて教室を出た。亮介のあとをついていくと、屋上へ繋がる階段に着いた。屋上は立入禁止だからあまり人が通らない、穴場スポットなのだ。

「菜摘って彼氏いんの?」

 並んで座るとすぐに亮介が切り出した。
 積極的な人だなと思いつつ、昔の自分を見ているみたいでちょっと恥ずかしくなる。

「いないよ」
「まじかあ。よかった!」

 なんかすごいストレートな人だな。
 たわいもないお喋りは予鈴が鳴るまで続いた。
 面白いし優しいし、由貴の言う通り、けっこういい人かもしれない。人懐っこくて話題が豊富だから、自然と打ち解けることができた。よく笑うから、気付いたら私も笑っていた。ひと言で言えば癒やし系って感じだ。
 こういう人、嫌いじゃないな、と思った。