教室に戻ると、理緒が一目散に駆けてきた。

「どうだった? 山岸さん」
「普通だったよ」
「ほんと!? よかったあ」

 私の手を取って満面の笑みを見せた。私が大ちゃんを避けていることに一早く気付いて一番心配してくれていたのは理緒だった。
 喜んでくれるのは嬉しい。でも私はきっと、理緒の笑顔を崩してしまう。

「でね、久しぶりに話してみて、なんかわかったんだけど。私たぶん、もうそんなに大ちゃんのこと好きじゃないっぽい」

 こんなの嘘。人生最大の嘘といってもいいほどだ。

「え……それ、本気で言ってる?」
「うん」
「中学の時から、ずっと好きだったんでしょ?」
「……うん」
「さっきも……山岸さんに会った時、菜摘、嬉しそうだったよ? そんな簡単に……好きじゃなくなるもんなのかな」

 でも、大ちゃんは振り向いてくれない。どんなに近付いても、私を好きになってくれない。この恋は叶わない。だったら、自分に嘘をついてでも、気持ちを押し殺してでも諦めるしかない。

 期待して落ちて、また期待してどん底に落ちて、大ちゃんと出会ってからずっとその繰り返し。いい加減疲れてしまった。こんな苦しい恋はもう嫌だ。矛盾だらけでうじうじと悩んで立ち止まってばかりいる自分自身も嫌だ。大ちゃんを好きになってから、自分が自分じゃなくなっていくみたいで怖い。

 大ちゃんといるのは楽しいから、友達になれるならなりたい。なにも考えずにただ笑い合える関係になれたらどんなにいいだろう。私が気持ちを押し殺しさえすれば、それが叶うかもしれないのだ。
 今ならきっとまだ間に合う。そう思いたい。

「じゃあ菜摘、そろそろ彼氏ほしくない?」

 由貴の意味深な笑みと意味不明な提案に、思わずきょとんとする。

「彼氏」
「そう、彼氏」
「彼氏……か」

 ──まともな恋愛しなさい。

 久しぶりに隆志の口癖を思い出した。
 そういえば、大ちゃんを好きになってから一度も言われていない。私はまともな恋愛ができていたのだろうか。少なくとも、隆志はそう思ってくれていたのだろうか。

「……いらないかも」
「え? なんで?」
「そういうタイミングじゃない」
「なにそれ?」

 大ちゃんのことを諦めるためには、違う誰かと恋をするのが一番いいのかもしれない。だけど無理に出会いを求めたり彼氏を作ったり、そんな荒療治みたいなことをすれば、また中途半端になって隆志に怒られてしまう。
 私自身、前みたいに戻りたくない。