実習を終えると、すぐに解散になった。隆志がこぐ自転車の荷台にまたがりながら、ヤマギシのことを考えていた。
秋風が私の横をすり抜ける。短いスカートから伸びた足に冷たい風が容赦なく吹きつけて、膝がひりひりと痛む。だけど未だに顔だけは熱でもあるんじゃないかと思うほど熱いままだった。
「隆志、やばい。超やばいです」
「菜摘んとこに来た人かっこよかったよね。ひと目惚れしたか」
「え、なんでわかったの」
「あからさまに動揺してたし顔真っ赤だったよ。そりゃわかるって」
「まじか」
もしかしてヤマギシにもばれていただろうか。だとしたらちょっと恥ずかしい。
「尋常じゃないくらいタイプだった。ものすんごいドストライクだった」
「よかったね」
「連絡先とか訊けばよかったあ」
「んな余裕もタイミングもなかったじゃん」
坂道を下りきったところで赤信号に引っかかり、突然止まった勢いで隆志の背中に軽く頭突きをした。全然痛くもないのに、なんとなく右手でおでこをさする。
「俺は応援するよ。だから、今度こそまともな恋愛しなさい」
これは隆志の口癖だ。
口癖にさせてしまうほど、私は中途半端な恋愛ばかり繰り返していた。
誰かを本気で好きになったことなんて、一度もなかった。