大ちゃんを避けたままGWに入り、また学校が始まる。
昼休みに四人で学食へ向かった。学食はいつも人で溢れ返っていて、食堂も長蛇の列だ。なんとか席を確保して食べ終えた私たちは、すぐに教室へ戻るため出入口に向かった。
人がごった返しているというのに、その人影を見た瞬間、まるでレーダーでもついているみたいに全身が反応した。
「……大ちゃん」
入学してからたったの一か月で、大ちゃん捜しはもはや私の特技になっていた。避けているのに、見かけるたびに安心してしまう。そんな矛盾だらけの自分が嫌だ。
友達に囲まれて笑っている大ちゃんの姿から目を離せない。学食で会ったことはないから、まさかいると思わなかった。
密かにうろたえているうちに、私に気付いたらしい駿くんが大ちゃんに耳打ちをしてこっちを指さした。すると大ちゃんはみんなに手を振って、ひとりで私のところまで歩いてきた。
「久しぶり」
見つかっちゃった、と思った。
大ちゃんがわざわざ私のところまで来てくれた、とも思った。
「……うん。久しぶり」
観念して、無理に頬を上げた。
「菜摘って学食来るんだ」
「たまにね。大ちゃんは?」
「俺もたまに。偶然だね」
理緒たちが「先に戻ってるね」と気を利かせてくれたから、急にふたりきりになってしまった。気まずいのに、嬉しい。また矛盾だらけだ。
「……あのさ」
片手をポケットに入れて、もう片方の手でこめかみをかく。
大ちゃんは私に負けないくらい気まずそうに目を泳がせながら、口を開いた。
「こないださ、ごめんね」
こないだ、で思い当たるのはひとつだけ。私が大ちゃんを避け始めた理由。
「そんなこと気にしてたの?」
私にとってはまったくもって〝そんなこと〟じゃなかった。なのにそう言ったのは、嬉しかったからだ。
私を気にかけてくれていたことが、嬉しかった。
「謝るタイミング見つかんなくてさ。俺馬鹿みたいにしつこかったよね。ごめんね」
「怒ってないから謝らなくていいよ」
嬉しい。すごく嬉しい。でも。
再会してから、大ちゃんは音信不通になった時のことに一切触れてこない。だから私のことなんて気にしていなかったのだと思い知らされた。今回も何事もなかったみたいに接してくれたら、無神経だなって幻滅して、いい加減諦められるかもしれないのに。
どうして謝ったりするんだろう。どうして大ちゃんは、私が諦めようとするたびにこうしてまた引き寄せてくるんだろう。
「よかった。ありがと」
予鈴が鳴る。頭に乗った大ちゃんの手に、全身が反応する。
チャイムの音にも負けないくらい、心臓が大きく鳴る。
「じゃあ、またね」
ねえ、大ちゃんは──〝またね〟って、どんな気持ちで言ってるの?