「だから、見たことあるって」
そうじゃなくて。
ちょっと信じられない。大人数で遊んだなら覚えていなくても無理はない。だけど一回目は四人、二回目は五人だった。決してその場にいた人を覚えられない状況じゃないと思う。
呆気に取られていると、後輩らしき男の子が大ちゃんを呼びに来た。休憩はもう終わりらしい。この信じられない現象をなんとか解析したいところなのに。
でも、そういえば。
どうして私のことはすぐに覚えてくれたんだろう。
「あいつかっこよくない?」
先に立ち上がった大ちゃんが、体育館に戻っていく後輩を指さして言った。
「え? ああ、うん、そう?」
我ながらこの上なく空返事だった。衝撃と疑問が頭を占拠していて、彼の顔なんか見ていなかったのだ。
それに、大ちゃんのことを好きになってから他の人に興味を持ったことがない。
「惚れちゃった?」
「は?」
「ほんとはあいつのこと見に来てるとか?」
にやにやしながら言う大ちゃんにちょっとイライラする。
なんなんだろうこの人。なんで急にそんなこと言い出すんだろう。意味がわからない。本気で言っているのだろうか。
「惚れないから。馬鹿じゃないの」
いちいちムキになって、馬鹿なのは間違いなく私だ。
だけど悔しい。こんな風にからかうということは、私に興味がない証拠だ。
そんなこと痛いくらいにわかっているはずなのに、また会えるようになっただけで幸せだと思っていたはずなのに、どうしようもなく悔しい。私はどこまでも往生際が悪くて欲張りだ。
「あー……ごめん、怒った?」
惚れたって言ったら、どんな顔をする?
喜ぶ? それとも、少しでも、寂しがってくれる?
まだ大ちゃんが好きだよって言ったら、なんて言う?
「……帰るね」
俯いたまま、その場をあとにした。
結局こうなってしまう。私はずっと大ちゃんだけが好きなのに──なんて、そんなの私の一方的な想いで、大ちゃんは悪くない。わかっているのに、感情をコントロールできなかった。
次の日から、私は大ちゃんのところへ行かなくなった。理緒たちが行くと言っても、なにかしら理由をつけて逃げた。大ちゃんを避けるなんて自分でも信じられなかった。高校まで追いかけてきたくせに。
だって、どんな顔して会えばいいのかわからない。うまく話せる自信がない。うまく笑える自信がない。大ちゃんがなにを考えているのか、私にはわからない。訊く勇気だってない。
どうしたらいいのか、もうわからない。