放課後は理緒たちと四人でバスケ部の練習を見に行くのが日課になった。
バスケ部は理緒のお目当てである校内一のイケメンと名高い先輩を筆頭にイケメン揃いで有名らしく、ただの練習なのに観客は私たち以外にも大勢いて、キャーキャーと黄色い声援が飛び交っていた。
いつもちょっとぽけーっとしている大ちゃんが真剣にスポーツに励む姿はあまりにもかっこよくて、気絶してしまいそうなほどかっこよすぎて、もはや他の人たちが全員じゃがいもに見えた。
練習の休憩だったり空き時間になると、大ちゃんは必ず話しかけてくれた。私に手招きをして、体育館と本校舎を繋ぐ渡り廊下に連れていかれる。
「おまえどんだけ暇だよ」
笑いながら首にかけているタオルで汗を拭いて、スポーツ飲料をごくごくと喉に流した。こめかみから滴る汗にさんさんと輝く太陽が反射して、爽やかさを引き立てている。ハワイあたりで撮影した飲料水のCMみたい。
汗の匂いよりも甘い香りが私の鼻腔をくすぐる。香水なのか柔軟剤なのか、未だになんなのかは知らないけれど、私はこの香りが好きだった。
「もしかして、誰かに会いにでも来てんの?」
そんなの大ちゃんに決まってるじゃん──とは、言えない。
はっきりと聞いたわけではないものの、彼女とはまだ続いているようだった。だから告白したって、またあっさりと失恋することは間違いないだろう。今度こそもう話しかけてくれなくなるかもしれない。だったらなにも言わないまま一緒にいられる方が何倍も何十倍もましだった。
今はただ見ているだけでいい。大ちゃんといつでも会える距離にいられるのだから。一か月前までのことを考えたら、それだけで充分幸せだ。せっかくこうして会えるようになったのに、また赤の他人みたいに戻るなんて絶対に嫌だ。
一度大ちゃんを失った経験をしてしまった私は、ひどく弱虫になっていた。
「べつに。由貴たちが……」
「ユキって?」
当然知っているはずの名前を出したのに、大ちゃんは誰それ? とでも言うように首をひねった。
「え、由貴だよ。さっきも私と一緒にいた子。ていうか、遊んだことあるじゃん」
身振り手振りを交えて由貴の特徴をいくつか出していく。
「ああ、そういえば見たことあるなーと思ってた。ユキって名前だっけ」
見たことあるのは当たり前だ。二回も一緒に遊んだのだから。
一回目はカラオケであまり話さなかったしすぐに解散したし名前まで覚えていないのも無理はないけれど、植木くんの家で遊んだ時は何時間も一緒にいて、普通に話していたはずだ。
「覚えてないの? 嘘でしょ?」