年が明けてお正月番組にもだいぶ飽きてきた頃、深夜に大ちゃんからのメッセージが届いた。爆睡していたはずなのに、その名前を見るだけで瞬時に覚醒してしまう。

【起きてる? あのさ、カラオケ行きたくない?】

 寝てましたけど。
 時間を確認すると三時を過ぎていた。非常識だなあと思いながらも指先はすでに動いている。

【ずいぶん急だね。行ってきなよ】

 一緒に行こうと言いたいのは山々だけれど、私からは誘わない。誘えない。
 大ちゃんの口から聞いた〝彼女〟の破壊力は半端じゃなくて、絶大なダメージを受けた心は一週間が経っても修復しきれていなかった。

【菜摘、久々に行かない? 明日空いてる?】

 まさかこんなにあっさり誘われるとは。
 会いたいに決まっていた。大ちゃんとは初詣で会ったけれど、お互い友達といたから少し話して別れたきりだ。明日と言わず今すぐにでも会いたい。
 だけど、その前に言わなければいけないことがある。

【彼女は】

 そこまで打つと、指が止まった。文章の続きは頭に浮かんでいるのに、文字に起こすことができなかった。
 別れていないと言われたら、私は断れるのだろうか。そんなのだめだよって、彼女のこと大切にしなよって言えるのだろうか。
 無理だ。言えるわけがないし、言いたくもない。
 誘えないのは嘘じゃない。自分じゃ誘えないから、大ちゃんに誘ってほしかった。

 そうか、と思った。告白できなかったのも同じ理由だったのかもしれない。
 付き合えるか振られるか、あの頃の私は五分五分だと思っていた。自分から言うのが怖くて、大ちゃんが言ってくれるのを待っていたのだ。
 馬鹿みたいだ、私。勘違いばかりして恥ずかしい。

【うん、行きたい。明日行こっか】

 いくら考えても無駄だと悟り、本心だけ打って送信した。
 私は結局、会いたいという欲求に負けてしまうのだから。

 十五時に公園で待ち合わせて、歩いてカラオケに向かう。注文したコーラとアイスココアが届いた時、さっそく大ちゃんが私をどん底に突き落とした。

「あのさ、さっき思ったんだけど……これって浮気になんのかな」

 やっぱり別れていないんだ。
 治りかけていた心の傷がまた深手を負ってしまった。

「……なるかもね。彼女に隠れて他の女とふたりで会うなんて、一般的には浮気なんじゃない」

 どの口が言うんだろう。
 別れていないことなんて、なんとなくわかっていたくせに。だから『彼女はいいの?』と最後まで打つことができなかった。別れていないと知ってしまったら、誘いを断らなければいけなくなると思った。
 だから、なにも知らないふりをして会うことを選んだ。

「あー……そっか。菜摘は? 彼氏できた?」

 意味がわからない。
 どうしてそんなこと訊くの。私が好きなのは大ちゃんだけだよ。気付いてないの?
 告白してから日は経っていても、私は相変わらず気持ちを隠せていないと思う。諦めるどころか、どんどん大きくなっていくばかりなのだから。
 それとも、わざと?

「なんで?」
「いや、なんとなく」
「いないよ。できないし」
「そっか」

 ひどく渇いている喉にアイスココアを流し込んだ。