九月下旬。約束通り、隆志に連れられて体験入学に参加した。

「それでは引率の先生に従い、校内を見学してください」

 学校の方針やらなんやらの説明が終わると、壁側に並んでいた数人の教師たちが私たちの前に立ち、端から順番にいくつかのグループに分けていく。
 私たちのグループを担当するらしい先生の説明によると、校内見学のあとはちょっとした体験実習があるようだった。南高は普通科と専門科がある。隆志は普通科志望だから実習に興味がないようだけれど、私はただぶらぶら歩くより楽しそうだと思った。

 初めて来る〝高校〟は、中学とは比べ物にならないほど大きくて広かった。
 方向音痴な私にとっては複雑すぎるコースを歩き、校内を一周すると昇降口を出て、本館から少し離れた場所にある、これまた大きな建物の中へと足を運ぶ。さすが専門科もあるだけに、とても公立とは思えない広さだ。

 実習室の中には、作業服を着た男の先生と数人の高校生が待ち構えていた。いくつかの部品を組み合わせて、簡単な機械を組み立てるらしい。
 説明を聞いた時はまったくもって意味不明だった実習も、実際にやり始めると意外に楽しかった。

「ヤマギシ、ちょっとこっち手伝ってくれ!」

 私のグループの様子を見に来た先生が言った。各テーブルには指導する高校生がふたりずつ配置されているものの、中学生から次々と来る質問にてんやわんやになっていた。

「あれ? 先生、この子うまいじゃん」

 黙々と作業を進めていた私の頭上で声がした。
 うまい? なかなかいいこと言うじゃん、ヤマギシ。

「この実習できる子って珍しくない? しかも女の子で。才能あるね」

 ずいぶんと大げさに褒められ、一旦手を止める。
 どんな人なのか気になって顔を上げると、ヤマギシと目が合った。

 色素の薄い、透き通るようなブラウンの瞳が綺麗だと思った。
 くっきり二重の大きな目に高い鼻。整った顔立ちだけれど、やや垂れている目尻と唇の両端がナチュラルに上がっている大きな口のせいか、可愛らしいという印象を持った。
 無造作にセットされた柔らかそうな髪。背が高くて細身なのに、まくった袖から見える腕にはしっかりと筋肉がついている。

 かっこいい。信じられないくらい私のドストライクだったヤマギシに、思わず見惚れてしまった。

「うまいじゃん。これならうちの高校入っても大丈夫だ!」

 無邪気に笑ったヤマギシは、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「あ……はあ、どうも……」

 緊張のせいでうまく返せない。自分の感情だというのに、この気持ちをどう表現したらいいのかわからない。
 目が合っただけで釘づけだった。聞こえるのは自分の激しい鼓動だけ。まるで世界が止まったみたいだった。ヤマギシに不思議そうな顔で見られた時、やっと目を逸らすことができた。

 顔だけじゃなく、全身が熱い。きっと今、顔真っ赤だ。
 こういうの、なんていうんだっけ。ひと目惚れ、だろうか。

〝ビビッときた〟とよく聞くけれど、もっと大きななにか。〝恋に落ちた〟だとか甘い言葉よりも、〝雷に打たれたような感覚〟と大げさに聞こえる表現の方がまだしっくりくるかもしれない。

 彼との出会いは、私にとってそれくらい衝撃的だった。