人生で一番長く感じた一週間が過ぎ、待ちに待った、大ちゃんと一か月ぶりに再会する日を迎えた。二十一時に植木くんを除く四人で待ち合わせをした。どうせならみんなで行こうと駿くんが提案したのだ。
 駿くんが決めた待ち合わせ場所は、大ちゃんと再会したゲーセンだった。私は遠回りなんてもんじゃないくらい植木くんの家の方が断然近いからそれはそれは億劫だったけれど、待ち合わせに参加した。

 少しでも早く、大ちゃんに会いたかった。
 少しでも長く、大ちゃんと一緒にいたかった。

 由貴とふたりで待っていると、しばらくして背の高いふたつの人影が見えた。

「あ、いたいた」

 駿くんが私たちを指さした。隣にいる大ちゃんは、私を見て「久しぶり」と口角を上げた。どこか気まずそうに見えるのは、大ちゃんが一か月前のことを気にしているからなのか、単に私自身が気にしているからなのか。
 いつもは私が自転車で大ちゃんが徒歩なのに、今日は逆だった。

「チャリなんて珍しいね」
「植木んち遠いもん。てか、乗りなよ。寒いから早く行こ」

 大きな手で私の腕を引いた。
 厚着なのに、触れられた感触がしっかりと残る。触れられた部分が熱い。

「……うん」

 私は大ちゃんの、由貴は駿くんの自転車の荷台に座って、植木くんの家へ出発した。
 告白してから初めて会ったというのに、私たちは一切そのことに触れなかった。まるで昨日まで普通に遊んでいた友達みたいに、なんでもない話をして笑い合っていた。

 すぐ目の前に、もう見ることができないと思っていた大ちゃんの背中がある。
 ぐっと込み上げてきたものをごまかすように、大ちゃんの紺色のマフラーをくいっと引っ張った。

「山岸さん」
「なにが山岸さんだよ」
「ちゃんと駿くんについてってる?」

 大ちゃんの背中で前は見えないものの、由貴と駿くんの話し声が遠ざかっている。赤信号に引っかかると完全に聞こえなくなった。駿くんは横断歩道の先で止まることなく行ってしまったらしい。

「駿速すぎ。すげえ張り切ってんじゃん」
「大ちゃんがとろいんじゃん」
「俺はマイペースなんだよ。俺とふたりっきりになんの嫌?」

 マイペースというか、なんというか。
 大ちゃんが急に振り向くから、心臓が跳ねた。

「……嫌じゃないです」
「だろー? 素直でよろしい」

 大ちゃんは出会った日みたいに、無邪気に笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
 嫌なわけがない。冗談でも嫌なんて言えない。だって、ずっとこのままがいいと思っている。時間が止まってくれたらと、本気で願っている。
 ずっとふたりでいられたらいいのに──。

「ねえ。彼女、いいの?」

 大ちゃんのアポが取れたと聞いた時、駿くんは私と由貴もいることを言っていないのかと心配していた。彼女は嫉妬深いからあまり遊べなくなるかも、と告白した日に言われていたからだ。だけど大ちゃんは驚いた様子がない。ちゃんと事前に知っていたのだろう。

 それでも来てくれて、こうして普通に接してくれている。
 だから、もしかしたらと思った。
 もしかしたら、彼女と別れたんじゃ──。

「いいんだよ。今日は菜摘と楽しむ」

 私の気持ちなんて知らずに、大ちゃんは平然と答えた。
 菜摘と、と言ってくれたことが嬉しかった。
 だけど、別れたよ、と返ってこなかったことがショックだった。

 友達としてでも会えるならいいなんて、どうしてそんなこと思えたんだろう。友達なんて無理だった。ひと目見ただけで、やっぱり大好きだと確信してしまった。一か月も会っていなかったのに、ちっとも〝好き〟が小さくなることはなかった。

「そういや菜摘、髪黒くしたんだね」

 黒くしてから一回会いましたけど。
 どんだけ私に興味ないの。ていうか、どんだけ私にダメージ与えたら気が済むの。たったのふた言で私のHPはほぼゼロになってしまった。

「……受験生だからね」
「うちの高校来るんだよね?」
「うん。勉強頑張ってるよ」
「いい子じゃん」

 大ちゃんの紺色のマフラーが、ふわふわと風に揺れる。

「頑張って受かれよ。待ってるから」

 ほぼゼロになったHPが一瞬で回復する。どうして私はこうも大ちゃんの言動に一喜一憂させられてしまうのだろう。

「うん。絶対に受かるよ」

 頑張るに決まっている。大ちゃんに彼女ができてからは、今まで以上に頑張っていた。もう気軽に連絡を取ったりできない。誘うことはもっとできない。もう会えないかもしれない。だけど同じ高校にさえ行けば、会うチャンスはいくらでもある。

 そう、思い返してみれば私はそんなことばかり考えていた。
 本当は最初から諦めるつもりなんてなかったんだ、と今さら気付いた。