十一月中旬にもなると、すっかり冬の匂いがする。
 大ちゃんに振られた日から、一度も会うことのないまま一か月が過ぎようとしていた。

「そういえば、山岸とはどうなったの?」

 昼休みに勉強していると、伊織が唐突に言った。
 虚を突かれて、シャーペンを持つ手が止まる。

「あー……振られたよ。彼女できたってさ」

 視界に映っている文字がぐわりと歪んだ。
 ああ、私、振られたんだ。もう会えないんだ。
 自分で言ったのに、改めて現実を突き付けられる。

「は……? なにそれ。ただのチャラ男だったってこと?」
「どうだろ。もういいんだよ。しょうがないもん」

 少しでも私と同じ気持ちでいてくれているんじゃないか、と思っていたのは勘違いだった。自惚れでしかなかった。大ちゃんは他の人と付き合った。それが事実なのだから、しょうがないとしか言いようがない。

 伊織の言う通りただのチャラ男だったのかもしれない。あまりそうは思いたくないけれど、なんとも思っていない子を抱きしめたりは普通しない。それに私は、そんな人じゃないと言い切れるほど大ちゃんのことを知らないのだ。

「じゃあ志望校変えんの?」

 神出鬼没の隆志が、後ろから私のノートを覗き込んだ。

「盗み聞きばっかりしないでよ」
「いいじゃん。まさかまた私立行くとか言わないよな?」

 もう願書は提出したけれど、滑り止めに私立も受けるから、今からでも変えようと思えば変えられる。でも。

「言わないよ。頑張るって言ったでしょ」

 行くと決めたのだ。伊織だって自分の勉強時間を削ってまで協力してくれているのに、失恋したくらいで無駄にしたくない。

「そっか。安心した」

 隆志はにっと悪戯っぽく笑って、男の子たちの輪へ戻っていった。