連絡をすると、由貴と植木くんはすぐに来た。
 学生フリータイムが終わっても解散するにはまだ時間が早かったから、とりあえずゲーセンへ行くことになった。大ちゃんと植木くんがコンビニに寄りたいと言ったから、一旦別れて由貴とふたりで先にゲーセンへ向かう。

 遊びながら待っていても、大ちゃんと植木くんはなかなか戻ってこなかった。出入口はひとつしかないから見逃すわけがないし、由貴が植木くんにメッセージを送っても返ってこない。
 外に出てみると、室内でジャカジャカと流れていた音楽が途切れた代わりに、べつの騒音が耳に届いた。

「なんかうるさくない? 喧嘩かな」

 ほんとだね、と由貴に返す。
 決して平穏ではないこの町で、喧嘩なんて珍しいことじゃない。いつもならただ巻き込まれたくないな、と思うくらいだ。だけど今日はなぜか妙に嫌な予感がした。由貴も同じなのか、ふたりで顔を見合わせてから音のする方へ急いだ。

 歩き進めるにつれて、徐々に音がはっきりしてくる。予想通り喧嘩らしく、怒声に混ざってなにかがぶつかっているような、崩れるような騒音が響き渡っていた。大ちゃんと植木くんが寄ると言ったコンビニのすぐ近くだった。
 すでに野次馬が集まっていて、止めようとする人やおそらく警察に通報している人、喧嘩を煽る人もいる。珍しくない光景なのに嫌な予感が止まらない私は、人だかりをかきわけて前へ急ぐ。
 中心にいたのは──。

「大ちゃんっ」

 大ちゃんは口の端と頬に血を滲ませていた。なによりも驚いたのは、相手の首を絞めて、とても冷たい目をしていたことだった。
 首を絞められている男の人の顔は、青を通りこして白くなっている。

「大ちゃん!!」

 とっさに叫んで大ちゃんの腕を引っ張った。
 大ちゃんは我に返ったのか、冷たい目のまま私を見て「菜摘」と呟いた。

「菜摘! 逃げなきゃやばいよ!」

 由貴が叫ぶと同時に、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
 喧嘩の原因なんて知らない。ただ巻き込まれただけかもしれない。だけど明らかに大ちゃんよりも相手の方が重傷だし、この状況だと真っ先に補導されるのは間違いなく大ちゃんだ。
 焦った私は、より強く大ちゃんの腕を引っ張った。

「大ちゃん、逃げよう! 早く!」

 由貴や植木くんや、野次馬も次々と逃げていく。警察に見つかる前にと、人混みに紛れて全速力で駆けた。

 ひとまず近くにある四階建ての立体駐車場に逃げ込んだ。下の階にいたら警察に見つかってしまいそうで気が気じゃなかった私は、エレベーターを使って屋上へ向かった。深緑色のフェンスに背中を預ける。
 力なくコンクリートに座り込んだ大ちゃんは、ただぼんやりと灰色の空を見上げていた。