寒い寒いと言いながらも、私たちは移動することなくずっと公園で話していた。
 大ちゃんと話していると楽しくて、次から次へと話題が溢れてきてしまう。

「さすがにそろそろ帰ろっか」

 スマホで時間を確認すると、いつの間にか二十一時になろうとしていた。
 もうそんなに時間経ったんだ。もっともっと話したいのに。
 とはいえ、大ちゃんの言う通りそろそろ帰らなければいけない。はっきりと決められた門限はないものの、これ以上遅くなるとさすがに大目玉を食う。

「そうだね。帰ろっか」
「そんな落ちないでよ。じゃあいつでも会えるように、連絡先交換しよっか」
「えっ? うん! する!」

 目を丸くした大ちゃんは、可笑しそうに笑った。
 なぜ笑われたのか疑問に思いつつ連絡先を交換する。

「気を付けてね。時間遅いし心配だから、家着いたら連絡して」
「うん。わかったよ」

 ただの社交辞令だとしても、心配してくれて嬉しい。
 それに、さっそく連絡をする口実を作ってくれた。

「送ってやれなくてごめんね。じゃあ、またね」
「チャリだから大丈夫だよ。またね」

 大ちゃんは手を振りながら帰っていった。
 後ろ姿を見送ってから、私も家路を急ぐ。
 家に着くと、すぐにスマホを確認した。友達一覧には大ちゃんがいる。交換したのだから当たり前なのに、まるで夢みたいに思えた。
 これからはいつでも会えるんだ。もう奇跡を願わなくてもいいんだ。

【家着いたよ。大ちゃんは?】

 そんな短い文を打つのに何分かかったかわからない。緊張しすぎてうまく打てなかった。
 返事はすぐに来た。

【お疲れ。俺は寒くて死にそうだったから、タクシーで帰ったよ】

 あんな薄着でずっと外にいれば、そりゃあ寒いだろう。
 何度かやり取りをして、布団に潜った。

 ずっと思っていた。
 どうしてみんな、ちょっとしたことで奇跡だの運命だのと騒ぐんだろう。

 好きな人と街中で偶然会った。星座と血液型が同じだった。誕生日が同じだった。好きなアーティストが、漫画が、小説が同じだった。
 奇跡だの運命だの、そんなものはないのに。全部タイミングでできていて、たまたまタイミングがよかっただけの話なのに。ひと目惚れだって信じていなかった。初めて会った瞬間に好きになるなんてありえない。

 という、ちょっとひねくれた固定観念を持っていた私は、大ちゃんとの出会いによってすべてが覆されてしまった。
 大ちゃんと再会した時、真っ先に奇跡だと思った。二度目の再会で、運命ってあるのかもしれないと思った。
 たった一瞬で、大ちゃんに恋をした。