植木くんに家まで送ってもらうと、すぐに封筒を開けた。淡いピンク色の可愛らしい表紙には『Wedding Reception』と書いてあった。
手が震える。鼓動が速まる。
胸に手を当てて、深呼吸をして、パンフレットを広げた。
見開き一ページ目には、大ちゃんと真理恵さんの大きなツーショット写真が載っていた。前撮りの写真だろうか。タキシード姿の大ちゃんと、ドレス姿の真理恵さん。まだ一ページ目なのに傷口が半分くらい開いてしまった。
かっこいいなあ、と思う。私もタキシードを着た大ちゃんとこんな風に並んでみたかった、なんて、いくらなんでも未練がましすぎるだろうか。
二ページ目は、下部が席次表で、上部は私が一番見たくないものだった。
『新郎 山岸大輔 新婦 塚本真理恵』
ふたりの名前が歪んだ。堪えても無駄なことはもうわかっているから、手も涙も止めずにページをめくる。三ページ目はふたりが子供の頃からの写真や、大人になったふたりの写真、友達との写真が一面にぎっしり載っている。
隣のページに目をやると、大ちゃんと真理恵さんと、赤ちゃんの写真があった。とても小さい、産まれて間もない、しわしわの赤ちゃん。真理恵さんが赤ちゃんを大切そうに抱いている。大ちゃんは真理恵さんの隣で微笑んでいた。すごく幸せそうな、家族の写真。
赤ちゃん、無事に産まれたんだ。ほっとしている自分に、ほっとした。
だけどよく見てみると、赤ちゃんが小さすぎる気がする。
それにこの写真、最近撮ったものじゃない?
写真の中の大ちゃんは、最後に会った日よりも幼いような気がした。微妙な違いだけれど、なんとなく高校生の頃の大ちゃんに見える。写真だからだろうか。
疑問に思いながら目線を下げると、写真の日付が書いてあった。やっぱり最近のものじゃなく、ちょうど一年くらい前に撮ったものらしかった。さらに目線を下げると、長い文章がある。
一瞬ためらったけれど、読むことにした。
どれだけ傷口がえぐられてもいい。ちゃんと、すべてを知りたい。
長い長い文章の内容はこうだった。
一年前、ふたりが高校生だった時に真理恵さんが妊娠した。悩んだ末、お互いの両親も交えて話し合いを重ね、産むことになった。けれど臨月を迎えることなく、赤ちゃんは超未熟児で産まれた。そして赤ちゃんは、産まれてすぐに真理恵さんの腕の中で息を引き取った。赤ちゃんは天国へ行ってしまったけれど、ふたりはその悲しみを乗り越え、結婚を約束した。
読み終わった時、私は言葉を失っていた。
一年前、って。
──山岸、あいつ最近学校来てねえんだよ。
駿くんが言っていた頃だ。こんなことがあったなんて、全然知らなかった。真理恵さんが言っていた『婚約してる』と『子供がいる』というのは、こういうことだったんだ。
いろいろある、と大ちゃんに言われた時、そんなのたかが知れていると思っていた。
ただ長く付き合っていたから、踏ん切りがつかないだけじゃないのか、と。
そうじゃなかった。
私が思っていたよりもずっと、大ちゃんが言う『いろいろ』は深かった。
簡単に別れられるはずがなかった。
簡単に私を選べるはずがなかった。
──なんで別れてくれなかったの!?
──他に好きな子いるって言えば済む話じゃん!
自分勝手なことばかり言って、自分の気持ちを押し付けて、大ちゃんを責めた。無神経なのは私の方だった。
駿くんさえ知らなかったということは、大ちゃんはきっと誰にもなにも言わずに、ただ笑いながら過ごしていたんだ。
すべてを抱え込んで、大ちゃんはどれだけ辛かっただろう。
それでも大ちゃんは、私を支えてくれた。そばにいてくれた。たくさん救ってくれた。
ああ、やっぱりだめだ。
もう一度だけでいいから、大ちゃんに会いたい。
私もちゃんと、ごめんねって、ありがとうって言いたい。
メッセージなんかじゃなく、ちゃんと会って伝えたい。
──だから、どうか。
神様と呼ばれる人がいるのなら、もう一度だけ、あの人に会わせてください。
どうしても伝えたいことがあります。
だから、もう一度だけ、会わせてください──。