大ちゃんと最後に会った日から五か月が経ち、季節は冬になっていた。
 雪が積もり、辺りは一面銀色の世界だ。
 雪ってどこか寂しい気持ちになる。

 二年前の冬は、大ちゃんの弱さを見た。
 一年前の冬は、抱きしめてくれた。
 こんな寂しい冬の日には、大ちゃんはいつもそばにいて、手を握ってくれた。

 学校帰りにひとりでとぼとぼ歩いていると、私の前にハザードをつけた車が停まった。運転席の窓が開いて、中からひょこっと顔を覗かせる。

「おーい!」
「植木くん!」

 雪が降っていたから、ラッキーとばかりに乗り込んだ。
 植木くんとは卒業後もちょくちょく会っている。積もる話もなく普通に話していると、植木くんが唐突に言った。

「そういやおまえ、山岸と会ってねえの?」

 その名前に全身が反応する。

「え……会ってないよ。なんで?」

 必死に平静を装ってはみたけれど、声が震えた気がした。
 冬でよかった。もし気付かれても、寒さのせいにできる。

「こないだ山岸と真理恵の……あ、山岸の女な。ふたりの結婚式あったんだけど」

 結婚式──。
 そっか。結婚したんだ。子供がいるのだから当たり前だ。わかっていたはずなのに、聞いてしまうとショックは大きい。
 会った時はまだお腹がぺたんこだったけれど、いつ産まれるのだろうか。まだ先だろうか。大ちゃんは、もうすぐパパになるのだろうか。

「山岸に、菜摘元気かって訊かれたんだよ。おまえら仲よかったから、会ってねえのかなって気になってさ」

 大ちゃん、まだ私のこと気にしてくれてるんだ。

「あいつのこと名前で呼んだりタメ口使ってる後輩、おまえだけだったもんな」
「え……なにそれ、嘘でしょ?」
「は? なんで? バスケ部めちゃくちゃ上下関係厳しかったぞ」

 そういえば、部活中に後輩と話している姿を何度か見た時、確かにみんな敬語だった。それによく考えてみれば、運動部なんて上下関係が厳しいに決まっている。

 ──さん付けとか敬語とか、あんまり慣れてないから。

 大ちゃん、やっぱり嘘つきじゃん……。

「そういや、後ろにでかい封筒ない? 結婚式のパンフレットみたいなやつ入ってるよ」

 植木くんの言う通り、封筒が置いてある。
 好きな人の結婚式のパンフレットなんて見たいわけがなかった。五か月が経っても傷は癒えていない。やっとほんの少しだけ塞がってきた傷口をこじ開けて塩を塗るようなものだ。もはや自殺行為と言ってもいい。

 だけど私はスルーできなかった。
 絶対に見たくなんかないのに、わざわざ傷口をえぐりたくなんかないのに。
 見なければいけないような、確かめなければいけないような、そんな気がした。

「これ……借りていい? 見たい」
「ああ、いいよ。そのうち返せよ」
「うん、ありがと」

 なにか書いてあるかもしれない。
 真実を知りたい。私の中ではまだ、曖昧なことがたくさんある。