あれ、いつからいないっけ。
 記憶をたぐり寄せると、最後に付き合った人の顔がぼんやりと浮かんだ。

「半年くらい……かな。たぶん」
「すげえ曖昧だな」

 曖昧なのは、よく覚えていないからだ。付き合っていた頃のことも、別れた理由も時期も。私が振られたことだけは覚えている。

 私の恋愛はいつだって中途半端だった。好きでもない人と付き合って、すぐに別れて、付き合ったと言えるかさえ怪しいほどに期間が短いことも多かった。隆志が『まともな恋愛しなさい』と言うのはこれが原因だ。
 好きでもない人と付き合うなんて、決していいことではないとわかっている。それでも私は、好きだと言われたら深く考えもせずに応えてきた。だけどそれがどうしてなのか、自分でもよくわからなかった。

「あ……ごめん。ちょっと自分の世界入っちゃってた」

 せっかく一緒にいるのに、なにを考えているんだろう。
 冗談めかして言うと、大ちゃんは急に私の頭を撫でた。私の頭が簡単に包まれてしまうくらい手が大きくて指が長い。
 顔を上げると、

「菜摘、おいで」

 大ちゃんはにっこり笑って両手を広げた。

「え? おいでって……」
「なんか抱きしめたくなった。菜摘ちっこいし、俺の腕ん中にすっぽり収まりそうじゃん」
「ちっこいは余計だよ。てか、大ちゃんってチャラ男なの?」
「チャラ男じゃねえよ。なんか……菜摘、寂しそうだから」

 寂しそう、なんて、初めて言われた。菜摘はいつも元気だねとか、悩みなさそうとか、みんなに言われるのはそんなことばかりなのに。
 嫌だと思ったことはなかった。明るいとか元気とか言われるのはもちろん嬉しいし、悩みがなさそうというのは揶揄かもしれないけれど、実際にそこまで深く悩むことはないから反論もない。というか、うじうじするのが好きじゃないから、なるべく楽観的に考えてあまり思い悩まないようにしている。

 なのに私は今、寂しそう、と言われたことになぜかほっとしていた。

「おいで。ほら」

 腕を掴まれて抱き寄せられる。本当にすっぽり収まってしまった。

「菜摘はちっちえーな」
「やっぱチャラ男だ」
「ちげえっつの」

 好きな人に抱きしめられたというのに、ドキドキよりも安心感が圧倒的に勝っていた。大ちゃんの体温と、ほんのり香る甘い匂いにただただ安心して、なぜか泣きたくなった。
 ああ、そうか。
 どんどん前に進んでいくみんなに取り残されたようになる気持ちの名前も、よくないことだとわかっているのに好きでもない人と付き合う理由も、同じだったのだ。
 私、寂しかったんだ。

 私が答えにたどり着いたのを見計らったように、大ちゃんが私の頭をぽんぽんと二回撫でた。ずっと抱き合っているのも変だし、それを終わりの合図と解釈して大ちゃんから離れる。大ちゃんの腕の中から抜けただけで、嘘みたいに寒かった。
 大ちゃんはどうして、私の中に隠れていた、私でさえ気付かなかった寂しさを見つけてくれたんだろう。