やがて、恵実さんを載せた飛行機が飛び立っていった。
 その数分後、稲田先生が息を切らしながら僕たちのいるロビーに駆け込んできた。写真で見たのと同じく汗だくで、スーツには綿ホコリがついていた。
「先生!」
 出会い頭に、孝慈が勢いよく頭を下げる。
「下手なぬいぐるみなんて思っちゃって、スンマセンでした! 先生がふうちゃんを頑張って作ったなんて知らなくて……」
 稲田先生は僕たちがいることにとても驚いたようで、掠れた声で言った。
「小野寺、お前、なぜふうちゃんのことを!? いや、そもそも、どうしてお前たちがここにいるんだ?」
 家庭科室で拾ったぬいぐるみを持って空港をうろついていたら、先生の恋人だという人に声をかけられてぬいぐるみを渡した。
 僕は和歌子関連のことを隠しつつ、なりゆきを説明した。
 先生はガラス窓の外、滑走路のほうを見ながら言う。
「そうか、もう行ってしまったのか。……照れ臭いが、俺にも色々あってな」
 それから先生は事情を語った。
 先生によると、自分が手芸の本を借りるところや、ぬいぐるみを作っているところは気恥ずかしくて誰にも見られたくなかったとのことだ。
 時間の都合で仕方なく、学校でこっそり練習もしたが。
 下手すれば恋人の存在も知れ渡って、生徒にからかわれるかもしれないし、と先生はため息をついた。
「だったら、秘密にしておきますね」
 僕は先生にフォローを入れた。
「皆も、それで良いよね」
 やがて、別の飛行機が滑走路に降り立った。空港のアナウンスが鳴り、話は中断される。
 アナウンスの後、孝慈が先生に言う。
「俺思うんですけど、あのふうちゃん、なんで捨てちゃったんですか」
「いや……だってあんなものを渡すわけにはいかなかったし」
「ふーん? だったら、作り直したほうはうまく出来たんですか?」
「……実を言うと、手足の大きさがまたバラバラだった。それも飼ってる猫に破かれて、急いで直そうとしたら見送りに間に合わず。……踏んだり蹴ったりだよ」
 先生はスーツの袖の、例の傷を指さした。
「あのぬいぐるみは、恵実から聞いたことだけで再現しようと思った。
 似たようなテディベアが本に載ってたが、彼女が言うふうちゃんとは何かが違う気がした。
 だから三日間、俺なりに必死に知恵を絞ってたんだ。
 けど……やっぱり俺のも違うのかな」
「先生は、どうしてそこまでして、ふうちゃんを再現しようとしたんですか」