恵実さんはふうちゃんの頭を撫でながら続ける。
「けど、まさか、ふうちゃんを作ってくれるとは。ほんと、予想外だよ。しかも真一くん本人は来ないし、生徒さんが代わりに持ってくるとか」
 恵実さんがクスリと笑うのを見て、孝慈がおそるおそると言った感じで質問する。
「あのですよ」
「うん?」
「稲田先生、ただでさえこうして見送りに遅れたじゃないですか。その上で、もし、このぬいぐるみが手渡されなかったら、恵実さんはどうしてました?」
 恵実さんは少し間を置いてから答える。
「正直、いろいろ考えてたけど、どうなんだろう。人生に『もしも』は無いからわからないけど、もしかしたら、そのまま連絡先とかいろいろ消して、音信不通にしちゃったかもしれない」
 恵実さんはけっこう重大なことをさらりと言った。
 僕は自分の手帳のメモをこっそり見る。時計台の上で和歌子が話した、不幸解決のルール。【ある程度大きな不幸でないと未来写真に写らない】。
 未来写真というかたちで稲田先生の不幸として現れたということは、それは危うく現実になるところだったのだろう。