そして翌日。午前十時。
 夏休みの校舎と言っても、どこか慌ただしい。
 暑さのため廊下の窓は開いていて、体育館やグラウンドから運動部の練習する音が入り交じって聞こえてくる。途中で何人かの先生ともすれ違った。
「おはよう」
 僕が職員室に行こうとすると、廊下の前で既に三人が待っていた。
「……おはよう、加澤くん」
 意外にも、最初に返したのは松野だった。
「おはようございます」
 和歌子は松野の横にいた。
「よう」
 孝慈もいて、窓の前で暑そうにしていた。
「失礼します」
 職員室をたずねると、稲田先生はデスクにいた。
 先生が着ているのは、いつものジャージではなくスーツだった。これから大事な会議でもあるのだろうか。
「……加澤と松野に小野寺、今日もグループワークか?」
 近づくと、稲田先生がこちらに気づいた。
 心なしか、先生は僕たちのことを警戒しているようだ。昨日の図書館の時からそうだったが、なぜだろう。
 それはさておき、僕は先生のスーツを注意深く観察する。
 未来写真では、先生のスーツの袖に小さな引っ掻き傷のようなものが付いていた。
 写真で見た左の袖と、目の前の先生のスーツの袖とを照らし合わせる。
 観察したが、スーツに傷は……ついていない。
「やっぱり」
と孝慈が小声でささやいた。
 これで、あの傷は元々あったものでなく、空港に急ぐまでの間についた可能性が高くなった。それが何を示すのか、重要なのかもまだ分からないが。
 スーツをじっと見ていると、先生が言う。
「ああ、今日は忙しくてな。一年に二、三回、学校にお偉いさん方が来る日なんだ」
「そうだったんすか」