バスケ部の練習を見ていた僕はふと気がついて訊ねる。
「まだ旧校舎側の体育館でやってるんだね」
「ああ。今までお世話になってきたから、感謝の意味もこめてバスケ部だけでも最後まで使おうって話らしいぜ」
「ふーん」
「じゃ、行こうぜ、屋上。和歌子も待ってると思うし」

 和歌子は旧校舎の時計台と言っていた。時計台のある旧校舎屋上は立ち入り禁止であり、学校の建物の中では一番高い場所だ。
 体育館を出て階段を三回登ると、僕たちの前にあずき色をした鉄の扉が出迎えた。
 立ち入り禁止というからには鍵が掛かってあるはずだが、扉の端が少しだけ開いていた。和歌子が開けておいてくれたのだろうか。
 孝慈がドアノブを回し、僕たちは初めてその中に入る。
 扉が開くと、澄んだ空がひらけて、外の景色を見晴らす広い視界が現れた。
 この屋上が特別高い場所というわけではないが、すぐ近くに大きなビルが無いため、歌扇野の町、とりわけ市街地が遠くまでよく見える。
 僕たちはさらに、中央にある時計台の階段を上る。そうして時計の文字盤より上、三角屋根の真下まで来ると、より遠くまで歌扇野のまちを見渡すことができた。
奥の柵には、手すりに掴まって景色を眺めている女子生徒がいた。
「こんにちは」
 和歌子だった。彼女は僕たちに気づいて振り向くと、こちらに駆けてきた。
「結人さん、瑞夏さん、そして孝慈さん。改めまして。今のわたしが、本体のすがたです」