「――まぁ、そういうことで」
 和歌子が葉が一枚だけ集まった頭の髪飾りを指差し、二度目の説明を終える。
「ようは結人さん達と協力して不幸をあと三つ解決すれば、何も悪いことが起きなくて済むということです」
「……なるほど」
 孝慈は皿をテーブルの上に置き、和歌子の話にじっと耳を傾けていたが、
「よっしゃ、俺も協力するよ」
と急に元気な口調で片手を挙げた。
「はやっ」
僕は思わず立ち上がって孝慈の腕をつかむ。
「コージが真っ先に名乗りを挙げるなんて……いったいどういう風の吹きまわしだ?」
 孝慈はニヤリと笑う。
「明日、グループワークの班決めがあるだろ?」
「だけど……それがどうかしたのか?」
 グループワーク。
 僕たちの通う歌扇野高校では、この時期に一年生によるグループワークが行われる。学校の大きなイベントの一つだった。
 テーマは歌扇野の歴史や文化、地域活性化、地元企業の技術の紹介など、歌扇野にまつわることなら基本的に自由。
 期限は発表会がある十月の頭。
 もう夏休み前二日前だというのに、1Aは未だに班が決まっていない。
 先生が忙しくて、期末試験明けの今日にも班決めができなかったとか。
 孝慈は指折り数えながら言う。
「まぁ聞いてくれな。俺は貴重な夏休みを消費せず最短でグループワークを仕上げられる道を考えていた。
 明日も楽ができそうなグループに入るつもりだった。
 だが、たった今、気が変わった」
 孝慈はテーブルに両肘をのせ、和歌子をちらりと見る。
「座敷わらしちゃんの話を聞いて、閃いたんだ。俺がグループを作ることにして、テーマは『歌扇野の街並みの昔と今の比較』にしようとな」
 僕は孝慈の話を聞いて唸る。
「昔と今の街の比較? またお前らしくもない、難しそうな題材だな……。それと和歌子ちゃんと、いったい何の関係が?」
「そこなんだよ。旧校舎ができたのって、何十年も昔だろ。分霊でしか移動できないとはいえ、昔からいる座敷わらしなら、いろんなこと知ってるはず。当然この街のことにも詳しいはずだ」
「そうなの?」
 僕が和歌子を見ると、コクコクとうなずいて言った。
「はい。わたしばかりお願いをしているようで、正直申し訳なかったんです。
 でも、それならわたしは皆さんのお役に立ちつつ、気兼ねなく協力をお願いできますよ。わたし、こう見えて歌扇野の生き字引ですから」