その夜、父さんが帰って来た。
 そして僕は父さんの部屋に呼び出された。
 コンコンッ
 ドアをノックして中に入る。
「父さん、お久しぶりです。どうされまし……たか?」
 部屋で待っていた父さんの顔には怒りが溢れていた。
「夕陽、お前今日どこで何をしていた?」
「今日は朝陽と水族館に行きました」
「今日、お前がその朝陽って奴と恋人繋ぎをしていたっていってる者がおった。本当か?」
 今日は帰る時間が比較的早かったから……使用人の誰かに見られたんだ。そして、告げ口した。
 この場合、否定しても肯定しても怒りが収まることはないだろう。
 だったら、
「……」
「なんか答えんかい!」
 部屋に父さんの怒鳴り声が響く。
「ほ、んとうです」
「正気なのか?」
「はい」
「昔から暗い顔ばかりして、友達も作れない子かと思っていたがやっと友達ができたかと思えば、そいつは遊びにも行けないくらい金のないやつでお前のことを金ズルのように扱い、ほんとは縁を切ってやろうとも思ったがお前にはあいつ以外の友達がいない。だからしょうがないと思っていたが、今度はそいつと恋人になっただと⁈許せるはずがないだろう!」
「い、いやだ。僕は朝陽と一緒にいたい……」
「許さん! うちの金で遊ぶことしか考えてないクズ野郎と付き合うなんて論外だ」
「朝陽はいつかお金を返すために、バイト増やして働いてる。クズ野郎なんかじゃない!」
 僕のことはいい。だけど、朝陽のことを悪く言うのは僕だって許せない。
「ほう、バイトしてんのか」
「そうだ」
「でもそれは、本当にお前にお金を返すために働いてるのか? もっとほかのことのために働いてるのではないか?」
「ちがっ、」
「ほんとにそのいつかは来るのか?」
「……」
 何を言っても無駄……それが分かった。
「そうだ、お前の結婚相手が決まった」
「え?」
 僕の結婚相手……?
「ライバル会社の御令嬢だ。今度から手を組んでライバルではなくなることになっている。近々、食事でもすることになるだろう。それまでにこの件は片づけておけ。話は以上だ。もう行け」
 僕は、何も言えなかった。
 朝陽のことも結婚のことも、結局父さんには逆らえないのだろう。
 僕は、弱虫なんだ。