「あーさひ!」
朝陽はすぐに見つかった。
いつもの場所にいたからだ。
そこは僕の思いが通じたあの場所で、集合の時の待ち合わせ場所になっている。
朝陽は立ち上がって、こっちまで来た。
「おはよう。夕陽」
「朝陽、おはよー!」
朝陽は、紺のポロシャツに白のズボン、僕が去年の誕生日にプレゼントしたシルバーのネックレスをしていた。
髪型は、センター分け……
やばい……かっこよすぎる!
「朝陽……かっこいい。センター分け似合ってる……」
「ありがとう、夕陽も髪上げてるのもかっこいいぞ! なんて言うんだろう、大人っぽく見える」
「あ、りがとう……夕陽」
これが、好きな人の言葉ってものだろうか。胸がいっぱいで、幸せで、なんだかほわほわする。
「どうした? 体調悪い?」
「あっ、いやそうじゃなくてね、なんか……」
「なんかー?」
「幸せだなぁって」
「……」
あれ?反応がない……
「朝陽?」
朝陽の方を振り向くと、朝陽の顔が真っ赤に染まっていた。
「照れてるの……?」
「照れてない」
ぷいとそっぽを向いていたが隠れてない耳もちゃんと赤かった。
やっぱり、照れてるみたいだ。
「朝陽可愛いね」
「可愛くないし、ほら行くぞ!」
朝陽は僕の腕を急に掴んでかなり大股で歩き出した。
朝陽なりの照れ隠しなんだろうなぁ~
バレバレだけどさ!
公園を出た僕らはバス停まで歩き、バスに乗って水族館へと向かう。
バスに乗り込んだころには朝陽も落ち着いてきたのか、他愛のない会話を楽しんだ。
バスを降りるとすぐ目の前が水族館になっていて、たくさんの家族連れやカップルが出入りしてるのが分かる。
日曜日なだけあって、お客さんはかなり多そうだ。
小さな列ができている入場ゲートに朝陽が用意してくれたチケットを持って並ぶ。
順番は思ったよりも早く回ってきて、係員の人にチケットを渡し、確認のハンコが押されたものが手に帰ってきた。
朝陽も無事入場できたみたいで、いつの間にか、僕の隣にやって来た。
「行こっか」
「うん!」
割と暗めの海のトンネルみたいなのを抜けると、三百六十度水槽に囲まれた空間に出た。
「うわぁぁ!」
そこでは、色々な種類の魚が泳いでいた。
小型のサメ、エイ、ウツボ、他にも僕には名前のわからない魚がたくさん!
それに、水槽の中はとってもカラフル!
「綺麗……」
「綺麗だな、カラフルでキラキラしてて、楽園みたいだ」
「あ! エイがこっち来てるよ! 朝陽、写真撮ろ!」
「そうだなっ! こっちおいで」
朝陽はスマホのカメラを自撮りモードにし、僕を呼んだ。
「はーいちーず!」
カシャッ、、カシャッ、
二枚続けて撮った後は、二人で朝陽のスマホを覗き込み、撮った写真を確認する。
今回撮った写真は二枚ともいい感じで完璧だった。
一枚目はエイのお腹側が、二枚目は背中側が映っており、ピントもあっていた。
「朝陽! その写真後で二枚ともほしい!」
「了解!」
それから、僕たちは写真をめいいっぱい撮りながら順調に順路を進んでいった。カメにマンタにカクレクマノミ、エビにカニにペンギン! これだけじゃなくてもーーーーっとたくさんの海の生き物にあって、はしゃいで、いっぱい写真撮って全てを回り終えるころにはお腹がすいていた。
ぐぅぅぅ~~
「ぷはっ! 確かに腹減ったな」
「ちょっと! 笑うなよぉー! しょーがないだろ、全力で楽しんだら腹も減るんだ!」
「そりゃそうだ、昼食にしよう!」
「おー!」
二人で売店の横にあるレストランに入った。
中はお昼時からちょっと外れてたおかげで思ったよりも空いていた。
メニューはちゃんぽんなどの中華からスパゲッティーなどのイタリアンまでバリエーション豊かだったが、とあるものをメニュー表の中に見つけた僕たちの頼むものはもう決まっていた……
「照り焼きバーガーで!」
「チキンバーガーひとつ!」
一瞬、困惑した顔をした店員さんには悪いが、僕たちがハンバーガーを見つけてちょっとばかり興奮するのはしょうがない。
なぜって?
それは、ハンバーガーが人よりもちょっと好きなだけさっ!
まぁ、多分ちょっとじゃないけど……
「あ、はいかしこまりました。では、照り焼きバーガーをひとつとチキンバーガーをひとつでよろしいですか? セットにすることでお飲み物とポテトをお付けすることができますがいかがですか?」
確かに、のどが渇いている。
「じゃあ、セットにして下さい。いいか、夕陽?」
朝陽がこっちを見て聞いてくる。
何もかも朝陽に対応してもらってる。
優しいなぁ。
「うん」
「かしこまりました。では、お飲み物をお選びください」
「夕陽なんにする?」
僕はメニュー表を覗き込んだ。
あ、ここ珍しい。レモネードがある!
「レモネードにする!」
「おっけ! じゃあ、レモネードとコーラでお願いします」
「かしこまりました」
お会計を済ませ、料理を届けるときの札を受け取り、席を探しに行く。
中に入ると思ったより広かった。
それに、一段と目を引いたのは一番奥にある壁一面に広がる大きな水槽だ。
大小さまざまな魚がカラフルなそれぞれの色を輝かせながら、優雅に泳いでいた。
それだけではなく、この空間の至る所に床から天井までまである円柱の水槽もある。
水色基調の店内のものからも、水の中をイメージしていることが分かる。
「わぁ……」
「こりゃすごいな」
「うん。すごすぎる」
「あそこ座ろっか」
朝陽が指さしていたのは大きな水槽の目の前の席。
「うん! そうしよ!」
僕たちは、幻想的なこの空間を見渡しながら目的の席までゆっくりと歩みを進めた。
席に着くと、すぐに料理が運ばれてきた。
僕たちはどれくらい長い間この空間に見とれていたのだろうと考えるとちょっとばかり恥ずかしくなってしまった。
店員さんが僕たちの前に料理を置いていく。
「え⁉」
「どうされましたか?」
「あ、いや大丈夫です」
なんで、こんな声が出てしまったかというと……ハンバーガーのパンが、丸でなかったからだ。
「そうですか。わかりました。では、照り焼きバーガーセットの方のお飲み物はコーラで、チキンバーガーセットの方のお飲み物はレモネードでよろしかったでしょうか?」
「はい」
「以上でご注文の品はすべてお揃いでしょうか?」
「はい」
「では、ごゆっくりお楽しみください。失礼します」
店員さんが戻っていくのを見送って、僕は朝陽に話しかける。
「朝陽、朝陽! パンが! 貝の形してる! ほら、あのよく真珠が入ってるイメージあるやつの!」
「おう! 阿古屋貝だろ!」
「阿古屋貝っていうんだ!」
「それにしてもすごいな……パンだけでじゃなくグラスやお皿まで貝を模した形で作られていて、こりゃ写真撮るっきゃねえな!」
「当ったり前だ!」
僕らはさっと、スマホを取り出し自撮りをはじめに、店員さんにも二人で写真を撮ってもらい、これでもかってくらい写真を撮りまくった。
「今日はいい写真がいっぱい撮れたな」
「うん! 特にフォロワーさんにこの飯テロするのが楽しみだ」
「そうだな!」
実は僕たち二人でSNSやってて、フォロワーさんももうすぐ二万人になるから結構いるんだ。
ハンバーガーの飯テロをするのが一番多い投稿なのである。
「さ、食べよっか」
「うん! いただきます」
「いただきます」
僕も朝陽もまずはハンバーガーにかぶりつく。
遠慮しないで容赦なくかぶりつくのがハンバーガーの一番おいしい食べ方だ。
「美味しい……!」
「美味いな!」
そして、飲み物を飲む。ポテトを食べる。
いい感じにバランスよく食べ進め、最後の締めにはハンバーガーを食べ、飲み物で口を潤わせる。
いつも通りの手順でハンバーガーを食べる。
やっぱりこれが一番美味しい。
僕たちはあっという間に食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした!」
ふと、水槽の方を見ると、
「あ、ニモがいる!」
小さなオレンジ色の魚がイソギンチャクのあいだにいるのが見えた。
「ほんとだ! 気づかなかった。それね、カクレクマノミって言うんだよ!」
「そうなん! 朝陽よく知ってるね!」
「当ったり前だ! 俺を誰だと思っている?」
「それはもちろん朝陽様です」
おっ、いつもの茶番が始まった!
「うむ、よくわかっているじゃないか。よろしい」
「朝陽様はとてもお優しい」
「媚びを売っても無駄じゃぞ」
「そんなのわかっておりますとも」
「それなら、そなたを俺の臣下にしてやろう」
ぜんっぜん無駄じゃなかった。
「ぷっ、ははっはは」
「笑うなよ」
朝陽、照れてる……
「いや、だって様になってるていうかなんていうか面白いんだもん」
「そ、そんなことないし」
「いや、あるある!」
「ないし! ほらいくぞ!」
これ以上いじるのはやめといてあげよう。
「はぁ~い」
僕は素直に朝陽についていきレストランを出た。
朝陽は何も言わず、すたすたと歩いていく。
僕はどこに向かってるのか全くと言っていいほどわからなかったが、とりあえず朝陽に付いて行くことにした。
「わぁ!」
朝陽にぶつかるところだった。
「ちょっと朝陽急に止まらないでよ!」
「あ、ごめん! 着いたぞ」
そこはイルカショーの会場だった。
「朝陽そこッチケット買わなきゃ入れないよ!」
ここのイルカショーはチケットが別売りらしいのだ。
朝陽が知らないはずないんだけどなぁ。
「はぁ、自分のチケットをよく見てみろ」
「え?」
僕は鞄からチケットを取り出してよく見る。
そしたら端の方に、入場&イルカショーって書いてあるのが見えた。
「あ!」
「やっと、気づいたか。そういうことだ。チケットはもう買っている。ほら、行くぞ!」
朝陽はくるっと反対を向いて歩きだした。
「ねえ、朝陽!」
「ん?」
「大好き」
「俺も、大好きだ」
そして僕らは会場に入った。
中ではやたらとビニールの使い捨てレインコートみたいなのを売っていて、お姉さんたちが売りに回っていた。
買う人と買わない人結構半々くらいに分かれているように見える。
僕たちのところにもお姉さんわ来たが僕たちは買わないことで一致した。
水槽の中では準備運動でもしているのだろうかトレーナーさんたちを乗せて数匹のイルカが泳いでいた。
「夕陽、ほらあそこ! イルカたちの名前が書いてあるぞ」
朝陽が指差していたのは水槽の奥のパネルで確かに六匹のイルカの写真と名前が書いてあった。
「ん~、でも違いが分からん」
「俺もだ」
「だね」
「おっ」
音楽が変わった。そろそろ始まるみたいだ!
「みーなさーーん! こーんにーーちはーー! さてさて! 今日もイルカショーの時間がやってきました! まずはーー! 私たち自慢の六匹のイルカたちの紹介でぇーーす!」
そうして、始まったイルカたちの紹介だったが、どの子も可愛いのは可愛いが一匹一匹の違いは最後まで分からなかった……
でも、流石人気なだけあって、イルカたちのパフォーマンスは跳ねるわ、飛ぶわ、回るわ、投げるわで大迫力で最高!
ただ、いっちミリも遠慮なく水をかけてくるのはわざとなのだろうか?
お姉さんたちが使い捨てレインコートを売る意味がよーく分かった気がする。
少なくとも買わないで一致していた僕たちが買っておけばよかったで一致するくらいには僕たちはびしょびしょに濡れていた。
ショーが終わるとしばらくそこで写真を撮っていた。
幸い、会場が屋外だったのと今日の天気が良かったので会場を出るころには服や髪は乾いてきていた。
「さっ、帰ろっか」
「だね」
僕たちは出口に向かって歩き出した。
しばらくするとさっきのレストランが見えた。
隣に売店もある。
「あっ、」
「ん? どした?」
「朝陽、ちょっとここで待てる?」
「いいけど、バスまであんま時間ないぞ」
「大丈夫!」
「わかった」
僕は売店まで走った。
なんかお礼がしたいなと思ったんだ。
思い出も欲しかったし!
お店に入ると奥にあるイルカの人形が目に入った。
サイズは枕くらいで、全部で六色あるみたいだ。
あの六匹のイルカたちをイメージしているのだろう。
手に取ってみると、思ったよりサラサラとした手触りで気持ちよかった。
「これにしよう」
僕は水色とグレーを手に取り、レジでお金を払って売店を出た。
走って朝陽の元に戻り、合流した。
「おまたせ!」
「お帰り! 行こう、バスが来る」
「うん!」
バスにはギリギリ間に合った。
ほんとにギリギリだった
乗れないんじゃないかと焦って今もまだ心臓がドクドク言っている。
でも乗れたからか安心して、僕はいつの間にか眠っていたみたいだ。
最寄りのバス停の一個前くらいに朝陽が起こしてくれた。
バスを降りたらもうそこは見慣れた景色で、なんだか寂しく感じる。
「ねえ、朝陽」
「ん?」
「手繋ぎたい」
「いいよ?」
「やった!」
朝陽が僕の手をとる。そして、指を絡めてきた。
初めての、恋人繋ぎだった……
自分で言ったのになんだか恥ずかしい。
隣を見ると、朝陽の耳が真っ赤になっていた。
でも、今は僕も同じだろうから、この赤さは夕日のせいてことにしておこう。
家に着いたら、お別れの時間だ。
僕はさっき買ったぬいぐるみを渡す。
「朝陽、これ、プレゼント」
「ありがとう! 大事にする!」
「じゃあまたね」
「ばいばーい」
こうして無事に一日が終わったはずだった……
朝陽はすぐに見つかった。
いつもの場所にいたからだ。
そこは僕の思いが通じたあの場所で、集合の時の待ち合わせ場所になっている。
朝陽は立ち上がって、こっちまで来た。
「おはよう。夕陽」
「朝陽、おはよー!」
朝陽は、紺のポロシャツに白のズボン、僕が去年の誕生日にプレゼントしたシルバーのネックレスをしていた。
髪型は、センター分け……
やばい……かっこよすぎる!
「朝陽……かっこいい。センター分け似合ってる……」
「ありがとう、夕陽も髪上げてるのもかっこいいぞ! なんて言うんだろう、大人っぽく見える」
「あ、りがとう……夕陽」
これが、好きな人の言葉ってものだろうか。胸がいっぱいで、幸せで、なんだかほわほわする。
「どうした? 体調悪い?」
「あっ、いやそうじゃなくてね、なんか……」
「なんかー?」
「幸せだなぁって」
「……」
あれ?反応がない……
「朝陽?」
朝陽の方を振り向くと、朝陽の顔が真っ赤に染まっていた。
「照れてるの……?」
「照れてない」
ぷいとそっぽを向いていたが隠れてない耳もちゃんと赤かった。
やっぱり、照れてるみたいだ。
「朝陽可愛いね」
「可愛くないし、ほら行くぞ!」
朝陽は僕の腕を急に掴んでかなり大股で歩き出した。
朝陽なりの照れ隠しなんだろうなぁ~
バレバレだけどさ!
公園を出た僕らはバス停まで歩き、バスに乗って水族館へと向かう。
バスに乗り込んだころには朝陽も落ち着いてきたのか、他愛のない会話を楽しんだ。
バスを降りるとすぐ目の前が水族館になっていて、たくさんの家族連れやカップルが出入りしてるのが分かる。
日曜日なだけあって、お客さんはかなり多そうだ。
小さな列ができている入場ゲートに朝陽が用意してくれたチケットを持って並ぶ。
順番は思ったよりも早く回ってきて、係員の人にチケットを渡し、確認のハンコが押されたものが手に帰ってきた。
朝陽も無事入場できたみたいで、いつの間にか、僕の隣にやって来た。
「行こっか」
「うん!」
割と暗めの海のトンネルみたいなのを抜けると、三百六十度水槽に囲まれた空間に出た。
「うわぁぁ!」
そこでは、色々な種類の魚が泳いでいた。
小型のサメ、エイ、ウツボ、他にも僕には名前のわからない魚がたくさん!
それに、水槽の中はとってもカラフル!
「綺麗……」
「綺麗だな、カラフルでキラキラしてて、楽園みたいだ」
「あ! エイがこっち来てるよ! 朝陽、写真撮ろ!」
「そうだなっ! こっちおいで」
朝陽はスマホのカメラを自撮りモードにし、僕を呼んだ。
「はーいちーず!」
カシャッ、、カシャッ、
二枚続けて撮った後は、二人で朝陽のスマホを覗き込み、撮った写真を確認する。
今回撮った写真は二枚ともいい感じで完璧だった。
一枚目はエイのお腹側が、二枚目は背中側が映っており、ピントもあっていた。
「朝陽! その写真後で二枚ともほしい!」
「了解!」
それから、僕たちは写真をめいいっぱい撮りながら順調に順路を進んでいった。カメにマンタにカクレクマノミ、エビにカニにペンギン! これだけじゃなくてもーーーーっとたくさんの海の生き物にあって、はしゃいで、いっぱい写真撮って全てを回り終えるころにはお腹がすいていた。
ぐぅぅぅ~~
「ぷはっ! 確かに腹減ったな」
「ちょっと! 笑うなよぉー! しょーがないだろ、全力で楽しんだら腹も減るんだ!」
「そりゃそうだ、昼食にしよう!」
「おー!」
二人で売店の横にあるレストランに入った。
中はお昼時からちょっと外れてたおかげで思ったよりも空いていた。
メニューはちゃんぽんなどの中華からスパゲッティーなどのイタリアンまでバリエーション豊かだったが、とあるものをメニュー表の中に見つけた僕たちの頼むものはもう決まっていた……
「照り焼きバーガーで!」
「チキンバーガーひとつ!」
一瞬、困惑した顔をした店員さんには悪いが、僕たちがハンバーガーを見つけてちょっとばかり興奮するのはしょうがない。
なぜって?
それは、ハンバーガーが人よりもちょっと好きなだけさっ!
まぁ、多分ちょっとじゃないけど……
「あ、はいかしこまりました。では、照り焼きバーガーをひとつとチキンバーガーをひとつでよろしいですか? セットにすることでお飲み物とポテトをお付けすることができますがいかがですか?」
確かに、のどが渇いている。
「じゃあ、セットにして下さい。いいか、夕陽?」
朝陽がこっちを見て聞いてくる。
何もかも朝陽に対応してもらってる。
優しいなぁ。
「うん」
「かしこまりました。では、お飲み物をお選びください」
「夕陽なんにする?」
僕はメニュー表を覗き込んだ。
あ、ここ珍しい。レモネードがある!
「レモネードにする!」
「おっけ! じゃあ、レモネードとコーラでお願いします」
「かしこまりました」
お会計を済ませ、料理を届けるときの札を受け取り、席を探しに行く。
中に入ると思ったより広かった。
それに、一段と目を引いたのは一番奥にある壁一面に広がる大きな水槽だ。
大小さまざまな魚がカラフルなそれぞれの色を輝かせながら、優雅に泳いでいた。
それだけではなく、この空間の至る所に床から天井までまである円柱の水槽もある。
水色基調の店内のものからも、水の中をイメージしていることが分かる。
「わぁ……」
「こりゃすごいな」
「うん。すごすぎる」
「あそこ座ろっか」
朝陽が指さしていたのは大きな水槽の目の前の席。
「うん! そうしよ!」
僕たちは、幻想的なこの空間を見渡しながら目的の席までゆっくりと歩みを進めた。
席に着くと、すぐに料理が運ばれてきた。
僕たちはどれくらい長い間この空間に見とれていたのだろうと考えるとちょっとばかり恥ずかしくなってしまった。
店員さんが僕たちの前に料理を置いていく。
「え⁉」
「どうされましたか?」
「あ、いや大丈夫です」
なんで、こんな声が出てしまったかというと……ハンバーガーのパンが、丸でなかったからだ。
「そうですか。わかりました。では、照り焼きバーガーセットの方のお飲み物はコーラで、チキンバーガーセットの方のお飲み物はレモネードでよろしかったでしょうか?」
「はい」
「以上でご注文の品はすべてお揃いでしょうか?」
「はい」
「では、ごゆっくりお楽しみください。失礼します」
店員さんが戻っていくのを見送って、僕は朝陽に話しかける。
「朝陽、朝陽! パンが! 貝の形してる! ほら、あのよく真珠が入ってるイメージあるやつの!」
「おう! 阿古屋貝だろ!」
「阿古屋貝っていうんだ!」
「それにしてもすごいな……パンだけでじゃなくグラスやお皿まで貝を模した形で作られていて、こりゃ写真撮るっきゃねえな!」
「当ったり前だ!」
僕らはさっと、スマホを取り出し自撮りをはじめに、店員さんにも二人で写真を撮ってもらい、これでもかってくらい写真を撮りまくった。
「今日はいい写真がいっぱい撮れたな」
「うん! 特にフォロワーさんにこの飯テロするのが楽しみだ」
「そうだな!」
実は僕たち二人でSNSやってて、フォロワーさんももうすぐ二万人になるから結構いるんだ。
ハンバーガーの飯テロをするのが一番多い投稿なのである。
「さ、食べよっか」
「うん! いただきます」
「いただきます」
僕も朝陽もまずはハンバーガーにかぶりつく。
遠慮しないで容赦なくかぶりつくのがハンバーガーの一番おいしい食べ方だ。
「美味しい……!」
「美味いな!」
そして、飲み物を飲む。ポテトを食べる。
いい感じにバランスよく食べ進め、最後の締めにはハンバーガーを食べ、飲み物で口を潤わせる。
いつも通りの手順でハンバーガーを食べる。
やっぱりこれが一番美味しい。
僕たちはあっという間に食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした!」
ふと、水槽の方を見ると、
「あ、ニモがいる!」
小さなオレンジ色の魚がイソギンチャクのあいだにいるのが見えた。
「ほんとだ! 気づかなかった。それね、カクレクマノミって言うんだよ!」
「そうなん! 朝陽よく知ってるね!」
「当ったり前だ! 俺を誰だと思っている?」
「それはもちろん朝陽様です」
おっ、いつもの茶番が始まった!
「うむ、よくわかっているじゃないか。よろしい」
「朝陽様はとてもお優しい」
「媚びを売っても無駄じゃぞ」
「そんなのわかっておりますとも」
「それなら、そなたを俺の臣下にしてやろう」
ぜんっぜん無駄じゃなかった。
「ぷっ、ははっはは」
「笑うなよ」
朝陽、照れてる……
「いや、だって様になってるていうかなんていうか面白いんだもん」
「そ、そんなことないし」
「いや、あるある!」
「ないし! ほらいくぞ!」
これ以上いじるのはやめといてあげよう。
「はぁ~い」
僕は素直に朝陽についていきレストランを出た。
朝陽は何も言わず、すたすたと歩いていく。
僕はどこに向かってるのか全くと言っていいほどわからなかったが、とりあえず朝陽に付いて行くことにした。
「わぁ!」
朝陽にぶつかるところだった。
「ちょっと朝陽急に止まらないでよ!」
「あ、ごめん! 着いたぞ」
そこはイルカショーの会場だった。
「朝陽そこッチケット買わなきゃ入れないよ!」
ここのイルカショーはチケットが別売りらしいのだ。
朝陽が知らないはずないんだけどなぁ。
「はぁ、自分のチケットをよく見てみろ」
「え?」
僕は鞄からチケットを取り出してよく見る。
そしたら端の方に、入場&イルカショーって書いてあるのが見えた。
「あ!」
「やっと、気づいたか。そういうことだ。チケットはもう買っている。ほら、行くぞ!」
朝陽はくるっと反対を向いて歩きだした。
「ねえ、朝陽!」
「ん?」
「大好き」
「俺も、大好きだ」
そして僕らは会場に入った。
中ではやたらとビニールの使い捨てレインコートみたいなのを売っていて、お姉さんたちが売りに回っていた。
買う人と買わない人結構半々くらいに分かれているように見える。
僕たちのところにもお姉さんわ来たが僕たちは買わないことで一致した。
水槽の中では準備運動でもしているのだろうかトレーナーさんたちを乗せて数匹のイルカが泳いでいた。
「夕陽、ほらあそこ! イルカたちの名前が書いてあるぞ」
朝陽が指差していたのは水槽の奥のパネルで確かに六匹のイルカの写真と名前が書いてあった。
「ん~、でも違いが分からん」
「俺もだ」
「だね」
「おっ」
音楽が変わった。そろそろ始まるみたいだ!
「みーなさーーん! こーんにーーちはーー! さてさて! 今日もイルカショーの時間がやってきました! まずはーー! 私たち自慢の六匹のイルカたちの紹介でぇーーす!」
そうして、始まったイルカたちの紹介だったが、どの子も可愛いのは可愛いが一匹一匹の違いは最後まで分からなかった……
でも、流石人気なだけあって、イルカたちのパフォーマンスは跳ねるわ、飛ぶわ、回るわ、投げるわで大迫力で最高!
ただ、いっちミリも遠慮なく水をかけてくるのはわざとなのだろうか?
お姉さんたちが使い捨てレインコートを売る意味がよーく分かった気がする。
少なくとも買わないで一致していた僕たちが買っておけばよかったで一致するくらいには僕たちはびしょびしょに濡れていた。
ショーが終わるとしばらくそこで写真を撮っていた。
幸い、会場が屋外だったのと今日の天気が良かったので会場を出るころには服や髪は乾いてきていた。
「さっ、帰ろっか」
「だね」
僕たちは出口に向かって歩き出した。
しばらくするとさっきのレストランが見えた。
隣に売店もある。
「あっ、」
「ん? どした?」
「朝陽、ちょっとここで待てる?」
「いいけど、バスまであんま時間ないぞ」
「大丈夫!」
「わかった」
僕は売店まで走った。
なんかお礼がしたいなと思ったんだ。
思い出も欲しかったし!
お店に入ると奥にあるイルカの人形が目に入った。
サイズは枕くらいで、全部で六色あるみたいだ。
あの六匹のイルカたちをイメージしているのだろう。
手に取ってみると、思ったよりサラサラとした手触りで気持ちよかった。
「これにしよう」
僕は水色とグレーを手に取り、レジでお金を払って売店を出た。
走って朝陽の元に戻り、合流した。
「おまたせ!」
「お帰り! 行こう、バスが来る」
「うん!」
バスにはギリギリ間に合った。
ほんとにギリギリだった
乗れないんじゃないかと焦って今もまだ心臓がドクドク言っている。
でも乗れたからか安心して、僕はいつの間にか眠っていたみたいだ。
最寄りのバス停の一個前くらいに朝陽が起こしてくれた。
バスを降りたらもうそこは見慣れた景色で、なんだか寂しく感じる。
「ねえ、朝陽」
「ん?」
「手繋ぎたい」
「いいよ?」
「やった!」
朝陽が僕の手をとる。そして、指を絡めてきた。
初めての、恋人繋ぎだった……
自分で言ったのになんだか恥ずかしい。
隣を見ると、朝陽の耳が真っ赤になっていた。
でも、今は僕も同じだろうから、この赤さは夕日のせいてことにしておこう。
家に着いたら、お別れの時間だ。
僕はさっき買ったぬいぐるみを渡す。
「朝陽、これ、プレゼント」
「ありがとう! 大事にする!」
「じゃあまたね」
「ばいばーい」
こうして無事に一日が終わったはずだった……