それからしばらくはとっても幸せだった。
 毎日のようにどこかに出かけた。
 ショッピングに、カラオケ、映画、遊園地、水族館に動物園。
 お金はほとんど僕が出している。
 朝陽にはほんとは遊んでるお金なんてないってそんなの知ってる。
 ほんとは申し訳ないって思ってることも、大体いくら使ったかメモしてるのも、いつか返せるようにたまにこっそりバイト増やしてることも……
 だけど、僕が遊びたいから……お金が理由でお出かけをあきらめたくない。
 だだの僕の我儘なんだ。それに付き合ってもらうんだからお金がほぼ全部、僕負担だとしても逆に感謝したいくらいだ。
 毎日のように一緒にいるのは変わらないけど、恋人となった僕たちはそれまで以上に共に過ごすようになった。
 ただ、その中でも僕にとってとびっきりに輝いてる思い出がある。
 それが、水族館デートに行った時の話だ。
 なんでそれが特別かって?
 それは……これからわかるはずさ!



「朝陽ーーー! こっちこっち!」
 僕は向こうから歩いてくる朝陽にぶんぶんと手を振る。
 僕に気づいた朝陽はニカッっと笑って手を振り返してくれた。
「お待たせ」
「全然、待ってないよ! ってか、食器とかおぼん片付けに行ってくれてたんだから! ありがとね、朝陽」
「いえいえ、どういたしまして! そろそろ、帰ろっか」
「うん」
 気づくともう八時半を回っていた。
 あ~、楽しかったなぁ
 今日は、学校が終わると同時に二人で学校を飛び出し、前から見たいと思っていた映画を見てきたのだ。
 結構前から上映してたからか、もうすぐ上映が終了するところで、一日の上映回数が少なく、学校の終わる時間を考えたらほんと上映時間ギリギリにしか映画館に着けないから観るか迷ったけど、ほんとに観てよかった。
 それから、切らしていたノートやシャーペンの芯とかを買いながら、ぶらぶらとショッピングを楽しみ、フードコートで夜ご飯にたこ焼きを食べた。
 時間に余裕がなかったからか、ほんとにあっという間だった。
 朝陽と離れたくないから、ほんとはまだ帰りたくないけど、結構疲れたのも確か。でも、今夜はちゃんと休まないと明日の体育の授業がやばい記憶しか残らなくなってしまうかもしれない。
 でも、やっぱ寂しい……
「明日も学校に来れば会えるぞ?」
「へっ?」
 あ、あれ?なんか言ったけ?僕……
「顔に寂しいって書いてあるぞ」
「ふへぇ?!」
「ぶはっ、わははっははっ」
 え、ちょっ! なんでばれて……
「あーおかしい、ははっ、なんだよ、ふへぇっておもしろい声だすな!」
 朝陽の手が僕の頭に乗る。そして、ぐりぐりと容赦なく撫でだした。
「あー! 朝陽!髪の毛ぐちゃぐちゃにしたー!」
「もう、帰るだけなんだからいいだろ?」
「い、いけど、せっかく朝陽のためにセットしたのに……」
 朝陽の手が急に止まった。
そしてちょっと僕の乱れた髪を整えて、
「それは、ごめん」
 謝ってくれた。
 僕は朝陽のこういう素直なとこも好きなんだぁ
「いいよ!さ、帰ろっか」
「ありがと。そうだね、遅くなって明日の体育で夕陽がぶっ倒れたら困るしな」
「え、」
 なんで、さっき考えてたことが朝陽にばれてるんだろ
 いや、でも言い方を変えれば、以心伝心ってやつかな?
 朝陽と同じこと考えてるって運命じゃん!
「どした?」
 ニヤニヤが止まらない。
 果たして僕はこんなにも幸せでいいのだろうか?
 でもとりあえず、
「ひーーみつっ!」
「やだ! 教えて夕陽!」
「やーだもん」
「おしえなさーーい、秘密はなしのはずだろー!」
「いやぁ~以心伝心だなぁ、運命だなぁって」
「は? 急にどうしたんだ?」
 朝陽は全然わからないって顔してる。
 なんか可愛い。
「ほーら、帰るよ――!」
「あっ、こら、無視すんな!」
 僕は朝陽を無視して出口の方に歩き出した。
 最初の方なんかブツブツ言って後ろについてきてたけど、気づくと黙って隣を歩いてた。
 僕の家につくまで会話は無かった。
 僕は今日の映画について、思い返していた。
 小学生の時に亡くした大好きな幼馴染と最後の約束を果たすため、故郷に帰って来た主人公が思い出の場所で不思議な男の子に出会い、真実を知っていくお話。
 幼いながらに主人公たちが抱いていた感情。純粋な恋に感動してしまった。
 怖くても、思ったことを大切な人に伝えることをためらってはいけないと改めて感じた。
 あまりにも、ドストライクに僕の心に刺さったから、原作の小説を衝動買いしてしまった。
「夕陽」
「ん?」
「ほら、ちゃんと周りを見ろ。お前んち、着いたぞ」
「ほんとだ……」
 全然気づかなかった。
「朝陽! 今日はありがと。また行こうね!」
「あ、うん」
 あれ、なんか歯切れが悪いな。
 どうしたんだろ。
 まあいい、明日会えるし、体育でぶっ倒れないようちゃんと寝なきゃだし……
 僕は家の門の扉を開けた。
「夕陽!」
「ん?」
「あの、これ……夕陽と行きたいと思ってチケット買った。よ、予定ちゃんと開けとけよ!」
 朝陽は僕に何か紙を握らせて、走り去っていった。
 僕はしばらくポカーンとフリーズしていたが、我に返って、握っている紙を見ると水族館のチケットだった。
「え、!」
 これを朝陽が準備してくれたの……?
 嬉しい……
 僕はポケットに入ったスマホを取り出し、朝陽に電話を掛けた。
 すぐには出なかった。
 五回ほど着信音がなったころようやく出た。
「朝陽! ありがとう!水族館のチケット! めっちゃ嬉しい!」
『そっかそっか、喜んでくれたなら良かったよ。やってみたかったんだこういう感じのプレゼント』
「楽しみだ! 日曜日」
『そうだな俺も楽しみだ』
「じゃあまたまた明日!」
『はーい。早く寝るんだぞー』
「ばいばーい」
 ピロンッ〜
 電話が切れた。
 僕は静寂に包まれていた……空を見上げると沢山の星が明るく輝いている。
 僕の心も同じくらい希望と期待で輝いている。
 できていないスキップで玄関までの道を駆け抜ける。
 辺りには僕の変なリズムの足音だけが響いていた……
 玄関について、大きな木のドアを引くとまだカギは閉まっていなかったみたいでガチャッと割と大きな音を立てて扉は開いた。
 豪華なシャンデリアに照らされた玄関は明るすぎて、しばらく目を開けれなかった。
「ただいま……」
 当たり前だけど、返事はない。
 父さんは忙しくて中々帰って来ない。
 お手伝いさんたちは夕方には帰ってしまう。
 身の回り担当で、母さんが死んでからずっとお世話になってる家政婦のかな江さんも遅くて九時には帰ってしまう。
 こんなこと絶対に言えないけど、ほんとはちょっと寂しい……
 僕は自室に鞄を置き、お風呂へ向かった。
 早く寝なくてはいけなかったから、考え事はせずさっさとお風呂を済ませ、歯磨きをし、ベッドに入った。
 ベッドに入った後、やっぱりなんか寂しくて、こんな時に朝陽がいたらなって思った。
 しかし、すぐに襲ってきた睡魔に疲れていた僕は抗えず、僕は意識を手放した。




 次の日の体育はバスケの授業だった。
 僕は体が弱いのか、それとも昨日の疲れが抜けてなかったのか……まぁ、多分両方なのだが、案の定、準備体操やランニングの時点でフラフラしていた。
 そして、僕はそのあとぶっ倒れたのであった……
 だけど、倒れた直後、視界の隅に全力疾走で駆け寄ってくる朝陽が映った。
 朝陽のことを考えると、嬉しいのと楽しみなので、倒れたけど僕の心は温かくて、幸せだった。