たった一人。
 僕には、友達がいた。
 僕の父は大きな企業の社長で、僕はいわゆるお坊ちゃまってやつだった。
 幼いころから、僕のことを誰も見てくれなかった。
 優しい人も親切な人もいる。
 だけどそれは、僕自身を見ている訳ではない。
 僕を通して、僕を取り巻く環境を見ているのだ。
 そう感じる経験を僕は沢山してきた。
 だけど、君だけは僕を見てくれたんだ。
   


「ねえ、朝陽(あさひ)。覚えてる? 初めて、この公園で出会った日のこと」
 懐かしいまだ小学生だったころの記憶。
 急に顔を掴まれた。
 僕は強制的に左を見ることになった。
 目の前には、朝陽の顔。
「朝陽近いって!」
「近づけてるんだから、当たり前だ」
「うぅ~、朝陽の意地悪」
「何回、その話するつもりだ? 俺が、忘れるわけない。そのことを忘れるな」
「はいはい、わかりました朝陽様ぁ」
「よろしい」
 僕は、この茶番も全部、忘れるわけないよ
 朝陽は僕の顔から手を離した。
 風が当たるようになって心地いい。
 だけど、ずっと掴まれたままでもいい。
 もっと、近づいてくれてもいい。
 なんなら、そのままキスしてくれったって、僕はいい。
 ずっと、変わらない。
 僕は、朝陽が好き。
 いつからかはわからない。
 気づけば、好きになっていた。
「好き……」
「ん?」
 よく聞こえない、そう言いたいんだろう。
 きょとんとした顔でこっちを見る。
 そんなところもたまらなく好きだ。
「朝陽が好き」
「俺も好きだぞ。この世界の中で夕陽(ゆうひ)が一番好きだ。一番のダチだよ」
「違っ……」
 僕は朝陽の方を向いて、そして頬にキスした……
「え、」
「朝陽が好き」
 急に視界が暗くなった。
 僕は、抱きしめられていた。
「俺も夕陽が好きだ。初めて会った時から、ほかの誰よりも夕陽のことを守りたいって思った。でも、怖かったんだ。伝えて、嫌われたら俺はきっと耐えられない。だから隠してきたけど、誰かに告白されたとき、一番最初に浮かぶのはなぜかお前の顔なんだよ」
 朝陽の匂いがする。
 家よりもどこよりも安心する僕の居場所。
「正直、朝陽……モテ過ぎてて僕、し、嫉妬してた……なんかいつの間にかあっさり他の女子にとられそうで怖かった」
「それは夕陽が言えることじゃないだろ。お前の方がモテてるし、家のこともあるし、怖かった。それに俺だって嫉妬してた」
 朝陽が僕から離れた。
「だから、これから僕に守らせてほしい」
「ありがとう、朝陽。大好きだよ! だけど僕だって朝陽のこと守るんだから」
「俺の方が大好きだ」
 それから僕たちは長いこと見つめあい、そして……キスをした。
 これまでの人生で一番幸せな時間だった。