ブラウさんを見つけるのは簡単なことであった。
彼女はβ世界線と同じく女子寮コースに通っていた。ユメに指示して少し探せば、ルイルリカップルとも仲よさげに歩いているところを予想通り見つけることごできた。私はここでとても大事な言葉を言わなければいけない。
「ブラウさん、はじめまして。私は、黒川ヨウヘイと申します。あなたが姫川桃子様のご友人と聞いて、ぜひともお願いしたいことがございまして、この度お声がけさせていただきました。何卒ご無礼お許し願います」
「あ、えっ、ええと。そんな、丁寧に。はい、わたくしでよろしければ言使いますわ」
「では、『宇宙人と未来人と超能力者の噂知っていますか?』と、このようにお伝えくださればおわかりになるはずですので、よろしくおねがいします」
「は、はい」
「ありがとうございました。それでは、失礼します」
私は深く一礼してその場を後にする。
頼んだぞ。
その一言がすべてを動かす道標になるんだから。
私はユメと合流し、それから再び食堂へ向かった。
今度は世界線重複による消滅から救うために。
※ ※ ※
食堂にはいつものがやがやとした雑踏がなく、今はちょうど四次元目の授業中であることをその静けさから気づいた。時計を見るとそんな時間だった。食堂にいるのはただ一人。自称未来人。味楽来玖瑠実。彼女のテーブルの前には食事はなく、パフェも置いておらず、あるのはセルフサービスの水が三つだけ。肩肘をついて私達の到着を待っていたかのようだった。近くに向かうと、肩肘をついていない手で座るように促された。私とユメは少し見合わせて、それから座った。水には口につけず、飲んだのは味楽来玖瑠実だけ。音のない無音が耳鳴りのように聞こえる。
「やっと、きてくれたのね」
「ええ、遅くなりました。味楽来さん」
「やっと来たわね、ヨウヘイ」
「はい、遅くなりました。姫様」
味楽来玖瑠実の隣には、桃子お嬢様が座っていた。彼女の前には水の代わりに紅茶のティーカップがある。
「それで、どうするの?」
「未来人からアドバイスとか、いる?」
「いえ、味楽来さん。お気遣いなく。大丈夫です。答えは出ています」
へぇ、と彼女は声にならない言葉で肘を入れ替える。
「まず、並行世界、チュウカ少年の異世界を呼び寄せてしまったのは紛れもなく私の観覧車です。そして、観覧車は私の願いから生まれたもの。私のわがままのようなものです」
「そうだね。だからこそ、私はヨウヘイのこと愛してるのよ」
「ありがとうございます、姫様。無条件の愛と信頼は私にとって代えがたい喜びです。ユメからも、同じように信頼してもらえている。すごく嬉しいんです」
「ヘイ様……」
「私が自殺すればおそらく観覧車は姿を消します。そうすれば、世界消滅の危機も、地球外知的生命体に侵略されることも、未来人が来る理由も、超能力者が世界を調べる理由もなくなります。いちばんわかりやすい。でも、私はわがままを言います。ユメと出会えたのは観覧車あってこそです。だから、私はこの出会いをなかったことにしたくはない。この関係を大切にしたいです」
「それじゃあ、何も解決にはーー」
「味楽来さん。そのとおり、このままでは何も解決になりません。ですから、私はわがままを言います。すべてを手にしたまま、世界を救います」
「へぇ」と、今度は姫様が嬉しそうにする番だった。
「ここに姫様がいるかどうか、それは私自身賭けでした。結果姫様は味楽来玖瑠実の手によってタイムトラベルし、ここに来ている。今の私には帰る手段が他にありません」
「帰ってどうするの? 元の時間軸に戻っても、あなたにできることなんてーー」
「一つだけあります。そのために帰ります」
「ヘイ様…………?」
「ユメ、大丈夫。もう危険な真似はしないし、自分の命を粗末にしたりはしないよ。それは約束する」
「いいよ」
味楽来玖瑠実は言った。
「いいよ。送ってあげる。全員あの時間、あの場所に移動しよう。そして見せてもらおう。私にできなかった世界を救う方法を。あなたを殺す以外の手段でできるというのなら、見せてもらおうクロノ・ジョーカー、黒川要黒!!」
そして、四人は最後の光に包まれていくのだった。
彼女はβ世界線と同じく女子寮コースに通っていた。ユメに指示して少し探せば、ルイルリカップルとも仲よさげに歩いているところを予想通り見つけることごできた。私はここでとても大事な言葉を言わなければいけない。
「ブラウさん、はじめまして。私は、黒川ヨウヘイと申します。あなたが姫川桃子様のご友人と聞いて、ぜひともお願いしたいことがございまして、この度お声がけさせていただきました。何卒ご無礼お許し願います」
「あ、えっ、ええと。そんな、丁寧に。はい、わたくしでよろしければ言使いますわ」
「では、『宇宙人と未来人と超能力者の噂知っていますか?』と、このようにお伝えくださればおわかりになるはずですので、よろしくおねがいします」
「は、はい」
「ありがとうございました。それでは、失礼します」
私は深く一礼してその場を後にする。
頼んだぞ。
その一言がすべてを動かす道標になるんだから。
私はユメと合流し、それから再び食堂へ向かった。
今度は世界線重複による消滅から救うために。
※ ※ ※
食堂にはいつものがやがやとした雑踏がなく、今はちょうど四次元目の授業中であることをその静けさから気づいた。時計を見るとそんな時間だった。食堂にいるのはただ一人。自称未来人。味楽来玖瑠実。彼女のテーブルの前には食事はなく、パフェも置いておらず、あるのはセルフサービスの水が三つだけ。肩肘をついて私達の到着を待っていたかのようだった。近くに向かうと、肩肘をついていない手で座るように促された。私とユメは少し見合わせて、それから座った。水には口につけず、飲んだのは味楽来玖瑠実だけ。音のない無音が耳鳴りのように聞こえる。
「やっと、きてくれたのね」
「ええ、遅くなりました。味楽来さん」
「やっと来たわね、ヨウヘイ」
「はい、遅くなりました。姫様」
味楽来玖瑠実の隣には、桃子お嬢様が座っていた。彼女の前には水の代わりに紅茶のティーカップがある。
「それで、どうするの?」
「未来人からアドバイスとか、いる?」
「いえ、味楽来さん。お気遣いなく。大丈夫です。答えは出ています」
へぇ、と彼女は声にならない言葉で肘を入れ替える。
「まず、並行世界、チュウカ少年の異世界を呼び寄せてしまったのは紛れもなく私の観覧車です。そして、観覧車は私の願いから生まれたもの。私のわがままのようなものです」
「そうだね。だからこそ、私はヨウヘイのこと愛してるのよ」
「ありがとうございます、姫様。無条件の愛と信頼は私にとって代えがたい喜びです。ユメからも、同じように信頼してもらえている。すごく嬉しいんです」
「ヘイ様……」
「私が自殺すればおそらく観覧車は姿を消します。そうすれば、世界消滅の危機も、地球外知的生命体に侵略されることも、未来人が来る理由も、超能力者が世界を調べる理由もなくなります。いちばんわかりやすい。でも、私はわがままを言います。ユメと出会えたのは観覧車あってこそです。だから、私はこの出会いをなかったことにしたくはない。この関係を大切にしたいです」
「それじゃあ、何も解決にはーー」
「味楽来さん。そのとおり、このままでは何も解決になりません。ですから、私はわがままを言います。すべてを手にしたまま、世界を救います」
「へぇ」と、今度は姫様が嬉しそうにする番だった。
「ここに姫様がいるかどうか、それは私自身賭けでした。結果姫様は味楽来玖瑠実の手によってタイムトラベルし、ここに来ている。今の私には帰る手段が他にありません」
「帰ってどうするの? 元の時間軸に戻っても、あなたにできることなんてーー」
「一つだけあります。そのために帰ります」
「ヘイ様…………?」
「ユメ、大丈夫。もう危険な真似はしないし、自分の命を粗末にしたりはしないよ。それは約束する」
「いいよ」
味楽来玖瑠実は言った。
「いいよ。送ってあげる。全員あの時間、あの場所に移動しよう。そして見せてもらおう。私にできなかった世界を救う方法を。あなたを殺す以外の手段でできるというのなら、見せてもらおうクロノ・ジョーカー、黒川要黒!!」
そして、四人は最後の光に包まれていくのだった。