「というわけでヘイ、命令よ! ルイルリカップルと枝桜&樹カップルを幸せにしてあげるのよ! 目標は夏祭り! レディ……ゴゥ!!!」
「下世話な命令ですね、姫様」
「ゴゥ!!!」
「……了解」
この間カップルになった枝桜氏樹氏カップルのおかげで知ることができた観覧車の謎を報告した私は次の命令をこのようにして受けていた。この世界でもルイルリカップルはあるんだな。なんか、ほっこりするわ。全力で応援しよ。
まず優先的に調べてのは二人に関する噂話だ。β世界線では心無いいじめが横行していたからな。枝桜氏が恋愛にかまけているところを見るに、彼が再び悪事に手を染めることはないだろうと踏んではいたのだが念の為。恋路の邪魔があるならば、それは最優先で排除しなければいけない。それと、肝に銘じるべきことがもう一つ。それは直接干渉してはいけないこと。あくまで間接的に。我々は部外者の第三者であるので、当事者になってはいけない。結果として状況が好転するのは願ってもないことではあるが、しかしだからといって直接人間関係を持つことはご法度である。百合の間に入る男など、存在すら許してはいけないし、百合の人間関係に男が入ることもありえない。部外者を徹底し、観覧者であるべきなのだ。百合好きなんてのはろくな人間じゃないのだから、変質者として通報されぬように見守り、必要とあらば行動する。それが求められる理想像である。しかし、それはそうとーー。
「姫様、ブラウさんとはあれからどうなのですか?」
「あら、ヘイにしては珍しく直接的ね」
「いえ、気になってしまったものですから。つい」
「ふーん、どうだか。まあ、いいわ。あの子とは今までどおり仲良くしてるわよ。友達として。ラブや体の関係にはならなかったわ。残念ながら」
「左様でございますか」
姫様が友達といえば友達なのだ。姫様の人間関係は定まっており、それ以上にもそれ以下にもなることがない。中途半端な見極め時期みたいなのはない。まずはお友達から、とかが大っきらいだ。交際するか、しないか。もっと言えば結婚するか、しないか。極端にも思えるその人間関係は、然して顔が広すぎる姫様としては当然なのだ。はっきりさせておかないと、悩み事だらけで大変になるからな。名刺に書かれた部署の名前のようにきっちりわける。曖昧な関係は存在しないのが姫川桃子お嬢様だ。
「ではいってまいります。…………ユメ」
「お呼びでしょうか、ヘイ様」
「任務だ」
「御意に」
※ ※ ※
『崖の端祭り』は高校の文化祭に近いが、文化祭はまた別にあるのでまったく別物である。どちらかというと地域のお祭りに近く、盆踊りや縁日、花火大会などが催される。増改築に伴って複雑怪奇と化している学校敷地内も、このときばかりはぼんぼり一色に染め上がる。
「お祭りですか」
「そうだ。毎年やってるやつだな。まあ、夏祭りとか、花火大会何てモノは普通は行くもんじゃない。告白しようとか、好きな子と手を繋ぎたいだとか、同じ時間を過ごしたいだとか、そんなのばかりだからだ。こういうのは一人で行って、大勢の人混みの中に一人でいることを寂しく感じ、そして夏の刹那的切なさを実感する。本来そういう場所なのだよ、祭りというのは」
「そうなのですか?」
「いや、多分違う。私の捻くれていた心が産んだ定義だ。無視してくれ」
「今年は一人ではないですね」
「そうだな。不本意ながら」
私はユメを見やって、笑みを少しだけ向けた。普段無表情のユメがどんな反応をしたのか見る前より先に言葉を口にする。
「現況悪い噂は」
「確認したところ、ありません」
「それは何より。じゃあ、予定通りに行くよ」
「はい、ヘイ様」
「今回の相手はわかりやすい。大剣を鞘なしで背負っているあの少年だ」
彼の名前はCH-U-KA。
とある街を縄張りとする一級虞犯少年だ。
「下世話な命令ですね、姫様」
「ゴゥ!!!」
「……了解」
この間カップルになった枝桜氏樹氏カップルのおかげで知ることができた観覧車の謎を報告した私は次の命令をこのようにして受けていた。この世界でもルイルリカップルはあるんだな。なんか、ほっこりするわ。全力で応援しよ。
まず優先的に調べてのは二人に関する噂話だ。β世界線では心無いいじめが横行していたからな。枝桜氏が恋愛にかまけているところを見るに、彼が再び悪事に手を染めることはないだろうと踏んではいたのだが念の為。恋路の邪魔があるならば、それは最優先で排除しなければいけない。それと、肝に銘じるべきことがもう一つ。それは直接干渉してはいけないこと。あくまで間接的に。我々は部外者の第三者であるので、当事者になってはいけない。結果として状況が好転するのは願ってもないことではあるが、しかしだからといって直接人間関係を持つことはご法度である。百合の間に入る男など、存在すら許してはいけないし、百合の人間関係に男が入ることもありえない。部外者を徹底し、観覧者であるべきなのだ。百合好きなんてのはろくな人間じゃないのだから、変質者として通報されぬように見守り、必要とあらば行動する。それが求められる理想像である。しかし、それはそうとーー。
「姫様、ブラウさんとはあれからどうなのですか?」
「あら、ヘイにしては珍しく直接的ね」
「いえ、気になってしまったものですから。つい」
「ふーん、どうだか。まあ、いいわ。あの子とは今までどおり仲良くしてるわよ。友達として。ラブや体の関係にはならなかったわ。残念ながら」
「左様でございますか」
姫様が友達といえば友達なのだ。姫様の人間関係は定まっており、それ以上にもそれ以下にもなることがない。中途半端な見極め時期みたいなのはない。まずはお友達から、とかが大っきらいだ。交際するか、しないか。もっと言えば結婚するか、しないか。極端にも思えるその人間関係は、然して顔が広すぎる姫様としては当然なのだ。はっきりさせておかないと、悩み事だらけで大変になるからな。名刺に書かれた部署の名前のようにきっちりわける。曖昧な関係は存在しないのが姫川桃子お嬢様だ。
「ではいってまいります。…………ユメ」
「お呼びでしょうか、ヘイ様」
「任務だ」
「御意に」
※ ※ ※
『崖の端祭り』は高校の文化祭に近いが、文化祭はまた別にあるのでまったく別物である。どちらかというと地域のお祭りに近く、盆踊りや縁日、花火大会などが催される。増改築に伴って複雑怪奇と化している学校敷地内も、このときばかりはぼんぼり一色に染め上がる。
「お祭りですか」
「そうだ。毎年やってるやつだな。まあ、夏祭りとか、花火大会何てモノは普通は行くもんじゃない。告白しようとか、好きな子と手を繋ぎたいだとか、同じ時間を過ごしたいだとか、そんなのばかりだからだ。こういうのは一人で行って、大勢の人混みの中に一人でいることを寂しく感じ、そして夏の刹那的切なさを実感する。本来そういう場所なのだよ、祭りというのは」
「そうなのですか?」
「いや、多分違う。私の捻くれていた心が産んだ定義だ。無視してくれ」
「今年は一人ではないですね」
「そうだな。不本意ながら」
私はユメを見やって、笑みを少しだけ向けた。普段無表情のユメがどんな反応をしたのか見る前より先に言葉を口にする。
「現況悪い噂は」
「確認したところ、ありません」
「それは何より。じゃあ、予定通りに行くよ」
「はい、ヘイ様」
「今回の相手はわかりやすい。大剣を鞘なしで背負っているあの少年だ」
彼の名前はCH-U-KA。
とある街を縄張りとする一級虞犯少年だ。