エデン・レイ率いる地球外知的生命体による地球侵略をタイムトラベルによって無事に阻止し、共存の道を切り拓いてから数日。しばらくは平穏という言葉がこれほどまでに相応しいことはないという平和な日々が過ぎていた。

 
 あれからレイはユメにひっついて離れないし、ユメはとても嫌がるし、姫様は観覧車の謎について調べるようにーーしかし、未だに歩いて辿り着くことはできていない。特殊な能力が全体に掛かっているのだろう。行くことができるのは相変わらずガールズカップルのみであるがーー秘密結社同好会のメンバーに命じるし、私はというと命じられるままに自称超能力者の元を訪れていた。ものすごく久しぶりな気がしていたが、最初に会ってから一週間程度しか経っていないという。時間を超えると、今がいつだかわけわからなくなるな。
 

「こんにちは。お久しぶりですね、ヨウヘイさん。およそ一週間といったところでしょうか」

「ええ、お久しぶりです枝桜さん。私はすごく昔のことのように思えますが、時が過ぎるのは早いですね」


 高身長で男性である枝桜心は、今日もドリンクを注文して先に飲んでいた。今日は『ゆずシトラスフルーティティー』だそうだ。爽やかな彼にぴったり。


「……なるほど。つまり、あなたはこことは別の世界でその出来事を体験し、それによって私が超能力者であると述べていることを信じようという。そういう話で間違いありませんか」

「ええ。そうです、間違いありません」

「そうですか。ありがとうございます。まずはそう、お礼を言わせてください」

「? どうしてです?」

「私が超能力者だと話した相手は他にもいます。彼は私の古くからの友人だったのですが、気のおける相手ということで悩み相談という形で打ち明けました。しかし、結果は否定。非現実的すぎる話に拒絶されてしまったのです。最初に姫川様から話を聞きたいと言われた時、私は誰から聞いたのか知りませんが《《そういう者》》ではありませんと嘘を言いました。到底信じて貰えるとは思っていなかったのです。あなたに会う時も、同様です。しかし、私にとって私が超能力者であることは事実。理由もわからずに、です。ですから、ああ、ありがとうございます。今全てに納得し、理解を得ることができました。これほど嬉しいことはありません」


 彼は私の『信じる』と伝えるための話に対してこのように述べた。私のタイムトラベルの話のほうがよっぽど非現実的だと思うのだが。


「しかし、それでは私はその『宇宙人』と戦わねばならないのでしょうか」

「いえ、この世界にそのような脅威は今のところありません。戦う必要もないです」

「そうですか、それは安心しました」

「その上で尋ねたいのですが」

「何でしょう」

「以前話していたあなたの超能力が使える《《特殊な環境》》とは、どのような状態なのですか」


 私はこれに観覧車が関係していると、そう踏んでいる。そのために今日、彼と再び話す機会を設けたのだから。



※ ※ ※ 



 しかし、彼はそこまでしても話してはくれなかった。私は超能力を信じると何度も話したが、ダメだった。時期が来れば、ときが来ればとしか言わず、具体的なことは話してもらえないまま、ただ感謝されて解散となった。


 私自身に超能力はない。普通の人間として生まれ、普通に生き、普通ではないことに巻き込まれただけ。戦場に身を置くδ世界の私とは違う。超能力は使えないし、感知することも状況とやらを作り出すこともできない。自分ひとりでは石を使ってタイムトラベルもできない。石も宝の持ち腐れ。無価値である。しかし、だからといって今度何か観覧車関連でコトが起これば、あまりにも責任を感じざるを得ない。それは私の極めて非常に個人的な感情から生み出されてしまったのだから。嗜好から作られてしまったのだから。今はまだ平和で何も起きていないが、いつ何が起きるかわからない。今度は違う生命体が攻めてくるかもわからない。エデン・レイが侵略を行おうとしていた事実がある以上、事前に対策を考えておくことは杞憂ではないだろう。


 それからは観覧車の秘密を探るという姫の命令どおり、私は自分の席から観覧車を眺めていることが多くなった。相変わらずガールズカップルの聖地として健在で、眼福眼福である。なむなむ。

 
 変わった点で言えば、私の思い付きから夜間ライトアップするようにした。ライトアップしたらいいな、と考えたら次の日からライトアップするようになった。ちょろいな、観覧車。思いのままだぜ。


 ライトアップ効果もあるのか、人気が出てきた。クラスメイトが話題にしているのを耳にすることも増えた。しかし、謎なのは行くことができないということ。人影を見たという話しも頻繁にあがるので、より不思議がられる。私も不思議だと思う。そしてその不思議を迷宮入りさせているのが、辿り着いた一部の人間たち。彼女たちは決して口外せず、固く硬く口を結んでいる。だからこそ、憶測が交錯して色恋沙汰関連を筆頭に様々な噂が流れるのだけども。


 そんな噂が飛び回っているある日であった。


「ご相談があるのですが」


 それは自称超能力者、枝桜心氏からのメール。


 メールの副題には『恋愛相談』と記されていた。