「だから、改めて教えてくれてありがとうって思ってる。高校に行くのは勉強する為と思うと無駄な毎日に意味が出来てスッキリした。オレ、何かをする為には納得出来る理由がないとダメみたい」
「……そうか。それはなんというか……」
「なんというか?」
「……うん。まぁその、おまえってさ、意外と真面目なんだな」
「! オレ、真面目?」

 目を丸くして聞き返してくる橘に、俺は大きく頷いた。自由な言動に派手な見た目。外から見たら絶対にそんな風には思わないけど、今日今この瞬間に橘に対して感じたのはこの言葉で間違いない。

「まぁでも、無駄も良いと思うけどな。無いと窮屈になるし」
「え、結城君がそう思うの?」

 意外!と、今度は向こうが全面的に表情に出している。まぁ、意外だろう。俺はどこからどう見たって普通な男だし、真面目な男だ。

「なんだろ、おまえから見ても真面目に生きてる俺的に辿り着いた答えとして、その無駄に意味を作るのが今日で、それが明日になるから無駄にも意味がある……っていうか。つまり、意味は無駄な昨日から生まれて、それを今日の俺が明日に変える、みたいな」
「今日のオレが、明日に変える……」
「そう。だから気づいた時には無駄だとか意味が無いとか感じた分は今日の自分の経験値になってて、一つレベルが上がった新しい明日になってるから大丈夫、みたいな。何事も経験が積み重なっていくからトライアンドエラーの精神でというか、失敗なくして成功なし、的なメンタルで。だから橘もあんま考え過ぎんなよ」
「…………」

 そして、自分語り恥っ、と我に返り俺が黙ると、ここで暫しの沈黙。橘は何も言ってこない。あれ? やっぱり俺めちゃくちゃスベってる?と、冷や汗が滲み出す程の無言の時を経て、ようやく橘は口を開いた。

「……結城君って先生じゃん」
「……え?」
「ありがとう、俺の先生」
「は?」

 揶揄われているのだと思って言い返そうとしたら、真っ直ぐな瞳に言葉を喉の奥に閉じ込められた。キュッと力が入ってどう反応していいのか分からない。

「オレ、結城君の事尊敬する」

 少しもふざけずにそんな事を言ってくるものだから、居た堪れない気持ちになって顔を逸らした。先生って、尊敬するってなんだよ。
 恥ずかしいのか、照れくさいのか、なんだかむず痒い気持ちなのが俺だけなのは可笑しいだろと思ったけど、これ以上特に言う事も言われる事も無く話題は移り変わっていった。