「なー。時間帯もあるんだろうけど、子供の映画って決めつけんの良くないよな。俺結局泣いちゃうもん」
「オレも! オレも泣いた!」

 少し興奮気味にも感じるテンションで橘は頷くと、おかわりを貰いに行って戻って来た。「いやー、映画っていいもんだな!」なんてニコニコしながら。

「俺もさ、合わないと二時間観んのだるくなる時あるけど、面白かった時はやっぱり特別な体験した後みたいな充実感あるよな」
「うん、今そんな感じ。もしかしたらオレ、映画観るって行為自体が嫌いだったのかも。面白い面白く無いじゃなくて、二時間拘束されるっていう時点で萎えてたっつーか。そうなると話も頭に入んなくなってた感じ」

 そう説明されて、ようやく橘の言っていた状態の事が初めて納得出来た。映画以外のものに例えてこれから二時間ここから出られないと思うと、確かに萎えるかも。だとしても始めからそんなテンションで観にこられたら映画の方も迷惑な話だろうけど。映画館にこんなテンションでくる人居る? こういうのって苦手意識とでもいうのだろうか。

「でも今回は平気だったんだ?」
「そう。自分でもびっくりした。多分あれだ、結城君が言ってたやつ、あれのおかげ。俺とポップコーンを食べに来ていると思え」
「え、マジでそう思って観てたの?」
「違う違う。なんかなるほどなって、あの時スッと心が軽くなったというか。なんかそれでいーじゃん、みたいな」
「?」
「知らない考え方を教えて貰えたみたいな感じ。間違いが正されるみたいな……ほらあの時、回答用紙覗いて怒られた時もそう」

 そう告げる橘に対して訳が分からないといった顔を全面に出している自覚はあったけれど、向かい側に座った橘が「顔!」といって指差して笑ってきたので、ムスッとしてコーラを飲んだ。だって本当に訳がわからなかったから。俺はいつも当たり前の事と思いついた事を言ってるだけだ。

「オレさ、最近無駄でつまんねー毎日だなって嫌になってたんだけど、そうだった、学校って勉強しに来る所だったって改めて気がついたといいますか。あれは目が覚めたね」
「いやでも、義務教育だってそうだっただろ」
「義務教育は義務じゃん。高校は自由じゃん。うちさ、親がオレを高校行かせるの渋ってさ。だったら逆に行ってやる的な反骨精神で入学したもんだから入った時点で完全に燃え尽き症候群出ちゃってて、本来の目的なんてすっかり忘れてた訳」
「忘れてた訳って……」

 びっくりした。ただ映画で静かに座ってんのが嫌だっていう話から、まさかこんな話に繋がるなんて。