そして翌日。俺達は映画館にやって来た。二人で夏の子供向け映画を観る為に。
 毎年この時期に公開するタイトルであり、誰もが幼い頃からこれを観て育ったような人気作である。辺りは親子連れが多く、それを確認した橘は改めて言った。

「高校生の男子二人で観る映画じゃなくね?」
「じゃあおまえサスペンスとか恋愛とか二時間観れんの?」
「え、観れない。よく分かったね」

 そして橘は、「オレさ、映画観てると途中で冷めんだよな」と、これから映画を観る者としてあり得ない心持ちの話をし始めた。

「なんだろ。今これ何の時間? てか今何時? みたいなさ、早く解放してくれ的な気持ちがやってくる」
「なんだそれ。単に集中が切れたんじゃなくて?」
「そうじゃなくてこう、時間を無駄にしてるような気持ちというか……オレ今ここで何してるんだろみたいな」
「映画観てんだろ」
「いやそうなんだけど、そうなんだけどさ……なんだろ? 飽きんのかな……」

 さっぱり分からないと思いつつポップコーンを買いに売店へ並ぶと、着いて来た橘がびっくりした顔で「え、買うの?」と聞いてくる。「買うに決まってんだろ常識だろ」と答えると、パチパチと二回瞬きをしながら、「マジで結城君って結城君だね」と真面目な顔で言った。

「オレ、映画館でポップコーンとか買ったこと無い」
「今日買えば?」
「二時間観れるかわかんないから買わない」
「いや、観ろよ。俺一人になるじゃん」
「でも急に虚無の時間訪れるからなぁオレ、マジでそういうの無理なんだよ」
「じゃあなんで今日来たんだよ」

 一から十まで訳が分からな過ぎて思わずストレートに飛び出した心の声。そんなつもりは無かったけれど、もしかしたら傷つけるような言い方になってしまったかもしれないと奴の顔を窺うと、その必要は一切なかったと一目で分かるくらいあっけらかんと奴は言った。

「フツーに結城君と遊ぶ為だけど?」

 何言ってんの? 当然だろ?とでも言いたげにそんな事を堂々と言ってのける橘に今日も橘だなぁとしみじみ感じた。何考えてるのか本当の意味で分からない、今まで俺の周りはいなかった考え方をするタイプの奴である。

「だったら別に映画である必要性無かっただろ」
「いやー、結城君とならオレも映画観れるかもしれないっていうチャレンジ精神も生まれちゃって」
「なんだそれ。それで結局観れなかったら俺が可哀想過ぎるからやめろ」
「でもさー、本当にオレ、意味の無い時間が耐えらんないんだよなぁ」

 ポップコーンとジュースを受け取ると入場開始時刻となり、ぞくぞくと人が入り口へ吸い込まれていくその列に俺達も並んだ。親子連れの中に俺と橘が混ざっているのは分かっていたとはいえやっぱり違和感があった。なんせ俺達はたった二人の高校生代表である。意味の分からない理由で途中退場されて一人きりになるのはやっぱり御免被りたい。