考えれば考える程に俺には何も出来ないのだと知って、出来ないという事は橘にとっての俺はそんな物だという事を理解する。
 橘はあの日、俺には橘の事は分からないと見切りを付けたのかもしれない。もしかしたら何かを期待して俺に尋ねたのかもしれないのに、肝心の俺はいうと、断る事も、受け入れる事も出来なくて、その質問ごと無い事にしていつもの橘だと変化に気付かない振りをした。その態度が、あいつを失望させたのかもしれない。
 
 だって、橘は俺の事を先生だと言っていたから。きっと俺はその期待に応えられなかったんだ。だから橘は何も言わずに消えてしまったんだ。でも俺は橘の事を生徒だと思った事は無い。俺は橘の事——友達だと、思っていた。


 何も出来なかった俺に、何も出来なかった毎日がやってくる。登下校の道、宿題をした机、よく使ってたコンビニ、一緒に観た映画、叫んだ夜の海——俺の周りにある全てが橘との思い出を蘇らせて、一つひとつが俺の心を責め立てる。あの頃は楽しかったねと。何か出来たんじゃないのかと。だとしても橘は、俺の事なんか何とも思ってないのだと……段々それが大きくなって、このまま自分に嫌気が差す毎日がずっと続いていくのだと知って、外に出るのも嫌になった。

 それだけ橘の存在は俺にとって大きかったんだなと、居なくなってより一層実感する日々を送っている。急に連絡があるかもしれないからとスマホが手放せなくなったって、連絡なんて一向に来ない。それが分かってるのに分からない俺の駄目な脳みそをぐちゃぐちゃに潰して捨ててしまいたかった。もう世界が一つの額縁におさまっているよう。だってあいつが居ないと楽しくない。ずっと一緒だった訳でもないのに、なんでこんな気持ちになっているのか、もう考え過ぎて分からなくなっていた。あいつはきっと、どこかで楽しくやってるんだろうに。

 ……そう、きっとあいつは今も、楽しく前を向いている。それは絶対にそう。ずっとずっと、そんなキラキラしてるあいつを見ていたから分かる。なのに俺は……一体何をやってるんだろう。こんな今の俺を、あいつに見せられる?

 凹んでばかりはいられない、立ち直らなければと焦るのに、結局何も変えられない。棘が刺さったまま抜けなくなり、何をしていても痛む心が治らない。そんな毎日を過ごしていた俺に、一通の手紙が届いた。

 素っ気ない封筒には消印も住所も差出人の名前すらも無く、でも一言、“結城君へ”とだけ書かれたその字を見て俺はすぐに分かった。だって同じ机で向き合って、ずっとその字を見ていたのだから。
 
 俺は急いで部屋へ戻ると、その手紙の封をあけた。