だから橘は俺をここに連れて来たのか。俺が何かに悩んでるって、気づいてくれたから。

「オレは上手く話すの下手だけど、結城君は言葉にして説明すんの上手いじゃん。好きなだけ言っちゃいなよ、ここで。海が全部沈めてくれるよ」
「……そうだな」

 大きく一回、深呼吸。橘が俺の変化に気付いて機会を作ってくれた。変に慰めたりするんじゃない、ただ海に叫ぶというシンプルな方法がなんだか橘らしかった。このままぐたぐた悩んでたって仕方ない。

「……俺さ、最近考えてる事があるんだけど」

 もうここで、この嫌な自分とはおさらばしてしまおう。俺の気持ち、俺の考え、今ここで全て表に出してしまおう。きっと橘はびっくりすると思うけど。

「俺の毎日って普通だなって、それでいいんだけど、それでいいのかなって、最近疑問に思ってる」
「なんで?」
「……だっておまえ、楽しそうじゃん」
「? まぁ楽しいけど」

 それがなんで関係あるの?と、橘は首を傾げている。それは本当にそう。橘からしたら意味がわからない事だろう。

「毎日を過ごしてる中で、この毎日を橘みたいに楽しいって感じられてるかと言われたらそうでは無いなって。じゃあどうしたい?って聞かれた所で今の俺はそれに答えられる訳でも無くて」
「やりたい事が無いって事?」
「そう」
「じゃあなんで高校通ってんの?」

 やりたくてやってるんだよねと、そう聞かれた気がしてドキっとした。だとしたら完全に図星を突かれたのだ。

「……ちゃんと大学出て、良いとこ就職する為」
「やりたい仕事あんの?」
「いや、無い。けど、やっとかないとどの仕事も就けないし……だからなんか、ぼんやりしてる。今も、明日も、その先も。ぼんやりと予定だけ決まってて、でもはっきりしてないのが不安になって、これで合ってるのかなって」

 もっとちゃんと分かっていたい。もっと自信を持って自分の人生だと毎日に胸を張りたい。でもぼんやりと輪郭を持たない毎日が続いていく気がして、このまま何も無い自分になってしまうのではと怖くなる。橘のように毎日に自信を持っていけたら良いのに。目的がはっきりした毎日を過ごしていけたらきっと充実して楽しくて、安心出来るのに。

「なんだ、そんなの当たり前じゃん」

 キョトンとして橘が言う言葉が怖かった。何て言われるのかと、無意識に心構える自分がいる。何を言われても傷つくだろうと思ったのだ、橘にはこんなことで悩む意味なんて分からないだろうと思ったから。