来年のことを言うと鬼が笑うというけれど、二年生の文化祭が終わって早々、功一は来年の文化祭の構想を語った。
「小学校四年生の時に、家族旅行でペルーに行ってナスカの地上絵を見たんだ。それが雄大でとにかくすごくてさ、いつか志月とも見に行きたいな。絵が好きになったのはそれが最初。で、姉ちゃんも同じくらい感動したみたいで、大学受験終わった後、美術鑑賞に目覚めちゃったんだよ。姉ちゃん優しいから、忙しいのに僕のことも東京の美術館にいっぱい連れて行ってくれてさ。それでさ、文化祭に出す作品のことだけど、校庭いっぱいに地上絵を描いて、お客さんには屋上から見てもらうの、よくない?」
 昼休みの屋上。弁当を食べる手を止めて功一は校庭を指さした。校庭では大勢の生徒がボールで遊んでいた。
「なるほどな」
「でさ、志月に一生のお願いなんだけど、いい?」
「内容によるけど」
 功一は好きな女子に告白でもするのかと言うほど緊張した様子で言葉をためた。

「志月と合作したい! 一緒に地上絵を描こうよ」
 どんな無理難題が来るのかと思い身構えていたが、拍子抜けした。
「そんなことに一生のお願い使うなよ」
「えー、ひどい。僕、真剣なのに」
「一生のお願いなんて使わなくてもOKするに決まってるだろバカ。無駄遣いすんな」
 俺は功一の絵が好きだ。だから、嬉しい誘いだった。むしろなんで俺に断る選択肢があると思ったのか不思議だった。功一の目が途端に煌めき始める。
「何描こうか」
 俺が質問すると、功一はもう決めていたとばかりにかぶせるように大声で答えた。
「日輪祭だからさ、向日葵を描きたい! 校庭いっぱいの向日葵!」
 ああ、それだ。と思った。一番しっくりくる提案だった。
「いいじゃん、最高じゃん」
 功一曰く、その時の俺の笑顔を絵に描いて残したかったらしい。筆も鉛筆も持っていないことが残念だったそうだ。