昨日、美大の合格発表があった。二人で合格発表に行ったが、功一だけが受かり、俺は不合格だった。国立の前期試験も落ちたので、既に受かっている地元の私大もしくは後期で受ける地元の国立に家から通学する。功一はちゃんと国立の医学部の方にも受かっていたのに、俺は全てが中途半端に終わった。俺より功一の方が泣きそうな顔をしていた。
「なんでお前が泣きそうなんだよ、バーカ」
「だって……」
「美大に行かなくたって、絵は描けるだろ。大学の美術サークルにでも入って楽しくやらせてもらうよ。それより、お前はこの後の親御さんとの交渉が本番だろ。ちゃんとしゃべれるか?」
「うん、頑張る」
 家に帰り、父に残念ながら不合格だったことを報告すると、知っていると冷たくあしらわれた。慰めの一つくらい言えないのかと心の中で悪態をつきながら自室に戻ると、画材一式も三年間で描いた作品も全てなくなっていた。どこにやったのかと父を問い詰めると、あろうことか処分したと吐き捨てられた。
「お前が美大になんて受かるわけがないだろう。才能も無いのに無駄なことに現を抜かしているから、東大に落ちるんだ。こんなことなら美術館に連れて行くんじゃなかったよ」
理解のある親だと信じていた。けれども、父は俺の青春の全てに「無駄」のレッテルを貼った。魂を込めて描いた絵も思い出の詰まった画材も勝手に処分した。裏切られた気分だった。しかし、一番苛立ちを感じたのはチャンスをものに出来なかった無力な自分に対してだった。
「一刻も早く後期試験の勉強をしなさい。それと、ダブルスクールの申し込みはしておいた。遅れを取り戻すために大学では心を入れ替えて勉強しなさい。いつまでも分不相応な夢を見て下手な絵を描いている息子がいると恥ずかしいから。私の立場も考えてくれ」
悔しくて拳を握りしめた。爪がささって、掌から血がでるくらいに強く握った。手の痛みは、やるせなさを掻き消してはくれなかった。