冷静に考えれば、文化祭当日雨が降るかもしれないし、校庭で出し物をやる団体だってある。功一の提案はあまりに非現実的だが、叶えてやりたかった。というよりも、功一の描く夢物語があまりにも魅力的で俺自身も叶えたくなっていた。
 功一を可愛がっている三島を味方に引き入れて、文化祭実行委員長、担任、はては校長までを相手にとにかく交渉した。口下手な功一に比べれば、俺には俺達の案の素晴らしさをプレゼンする話術はあった。
 残念ながら完璧な形で叶えることは許可されなかった。しかし、交渉の甲斐あって、体育館前に大きな絵を立てて展示する場所と雨除けが確保され、日常的に放課後校庭の一角で作品制作をすることが許された。
 ああでもない、こうでもないといいながら構図を考える日々。やっと構図が決まっても、大きなキャンバスに描くのは初めてで想像以上に難しかった。片方が屋上から全体を見渡して、メガホンで指示を出す作戦は画期的だったが他の部活からうるさいと苦情が出た。
 向日葵の花びらの黄色に何パーセントのオレンジ色を混ぜれば鮮やかになるのかを探す旅路はまるで宝探しのようだった。少しずつ形になっていく俺達の絵、毎日放課後が待ち遠しくて仕方が無かった。
 文化祭一週間前、ついに絵は完成した。体育館前の展示スペースに立てる前に、俺達は屋上から合作『僕らの向日葵』を見下ろした。俺達の青春が詰まった向日葵が秋の校庭に力強く咲いていた。
 俺達はハイタッチをした。お互いの顔も、お互いの手も見なくとも、呼吸がシンクロした。掌と掌がパンっと風船が弾けるような音を奏でた。